夢のつづきへ


今でも時々夢に見る
母さんと父さんとエリカと
家族が皆そろって
楽しく暮らしている夢
その夢を見ると、決まって涙が出てしまう
悲しいわけじゃないのにな

今は
こんなにも満たされているのに









夢のつづきへ









「……」

ベッドの上で上半身だけを起こしたフェアは、頬を流れる涙を拭った。
ここしばらくは見ていなかった夢を見た。

「母さんと父さんとエリカと…」

自分も一緒に笑顔でいる夢。
覚えていないはずの母や、ずっと離ればなれのエリカと共に過ごす夢は、フェアの心に喜びを与えてくれる。
悲しいと思うことはない。

なのに、なんで涙が出るんだろう

考えてもわからないことを考えるのは性に合わないと思い、フェアはベッドから下りた。

「家族…か」

着替えながらポツリとこぼれた言葉が、なんだか痛く心にしみた。
その時、ふと食堂の方が騒がしいことに気がついた。

この声は…リシェル?





「もとの平和な生活を返してよお!」

涙ながらに訴えるリシェルに、リビエルも先程まで言い争っていたアロエリも苦しい表情をしていた。

セイロンは何も言えずに、ただ佇むことしかできないでいた。
泣き叫ぶリシェルに対して、どんな風に声をかけたら良いのか、いくら考えてもわかる気がしなかった。

そうだ
我々が彼女らの平穏を奪った

それは、どんなに謝罪しても変えられない現実なのだ。
理不尽にも戦いの日々に巻き込まれ、傷つく。
年頃の少女には耐え難い毎日であることは違いない。
それでもリシェルは今まで泣き言ひとつ言わずに頑張ってきていた。
それは、ただミルリーフを守ろうという想いと、幼なじみのためにという想いの力なのかもしれない。

だが、いつまでも虚勢を張っていられるほど、強くはあれないということか

セイロンはツライと言って涙を流す少女に、何もしてやれない自分を、ひどくもどかしく思えた。
本当に何もできないのか、と。

リシェルが店から飛び出した後、フェアが自室から出てきた。
フェアは申し訳なさそうな顔をしていたが、それでも笑っていた。
気にしなくていい、たいしたことじゃないのだ、と。

……

セイロンは、何故かその笑顔が痛々しく見えた。
いつものフェアの明るい笑顔を思い出し、気のせいだったのかと解釈した。

結局のところ、リシェルのことはフェア達にまかせるしかなかった。
いくら自分達が言葉を尽くしても、たいした意味はないのだと御使い達はわかっていた。
平穏な生活を奪われる辛さはよく知っている。
その理不尽さに怒りを覚える気持ちもよくわかる。
だからこそ、なにもできないでいた。

実に情けない話だな

セイロンは思わずため息を吐いてしまった。

ふと、フェアの顔が目に入る。
彼女はつらくないのだろうか。
そんな疑問が降ってきた。





「のう、店主殿」
「ん?晩御飯ならまだよ」

厨房で夕飯の支度をしているフェアに、セイロンは率直に尋ねてみることにした。

「店主殿は、以前の生活を恋しいと思うことはないのかね?」
「え?」

最初は調理の手を止めてきょとんとした表情をしたフェアであったが、質問の意味を理解して納得したようであった。

「リシェルのこと、まだ気にしてるの?」
「まぁ…な。店主殿はどうなのかと思ってな」

フェアはまな板の上の食材に視線を落したまま、しばらく何も言わなかった。
彼女がどんな表情をしているのか、セイロンからは見えない。

「そりゃあ、さ。前の平和な生活に戻りたいって思う時はあるよ。でも、そんなこと言っても仕方ないし」

そこまで言って、フェアはセイロンの方へ向きなおる。
いつもの笑顔を見せて、言葉を続けた。

「私、今の生活だって大好きなんだよ」
「…戦ってばかりの生活なのにか?」
「確かに戦いばっかりなのはツライよ。でも、それ以上にこうして皆と一緒に暮らしていられることが幸せだもの」

意表を突かれた。

我は馬鹿か

つらくないはずがない。
何より彼女はまだ少女である。

それなのに

フェアは笑う。
このような状況でこそ幸せだと笑顔で言う。
なぜ。

「何故、そんな風に言えるのだ?」
「だってさ、私ずっとこの家に一人っきりだったから、家に私以外の人がいるってだけで嬉しいんだよ」

家族がいない。
その感覚がセイロンにはわからない。
多くの家臣にかしずかれて生活してきた自分には、フェアの気持ちをわかってやることはできない。

「リシェルやルシアンが一緒にいてくれたけど、夜になるとこの大きな家に一人っきり」

自嘲気味に笑いながら話すフェア。
今にも泣いてしまうのではないかと思える程の表情をしていた。

「でも、皆と一緒に暮らすようになって、大人数で晩御飯を食べるのが嬉しくって仕方ないのよ」

そうして満面の笑み。
やはり彼女は子供だと思わせるくるくると変わる表情。
しかし、その幸せそうな笑顔はどこか子供らしくなかった。

「私、あなた達のことを家族だと思ってるんだから」
「…そうか」

セイロンには、やんわりと微笑み返すのが精一杯であった。

フェアは晩御飯の支度に戻る。
彼女の料理があれ程美味しいのは、自分達のことを想ってくれているからだと理解した。
一方的に巻き込んで戦わせてしまっていると思っていたのは間違いだったようだ。

そんな彼女のために、自分にできることがあるとするならば。

それは、ただ傍にいてやることなのかもしれぬな

「セイロン?」
「我も手伝うぞ」

フェアは嬉しそうに笑う。

こうして隣に立っているだけでも、彼女の助けになるのなら。

我も、いつかは去っていくというのにか

自己満足なのかもしれない。
それでも、今はフェアのために。
大切な家族であり続ける。
いつか終わりを告げる夢であったとしても。

END

2008年6月執筆

初ロンフェア。
フェアもツライはずだけど、それ以上に家族がいることが嬉しいはず。
本編中のロンフェアも大好きですが、ED後の妄想をするのも楽しいです。
ロンフェアがお互いに意識し始めるのって、確実にED後だと思ってますし…笑
ちなみにタイトルが、ゲームのタイトル画面の曲名です…。あれ?夜会話の時もあの曲だっけ?(殴
それでは、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年6月19日