雪解け花 雪が降り始めた。 フラノール。年中白い街。だが、美しい所である。 「これが雪か〜!」 「キレイだね〜♪」 宿屋の一室。 窓から外の雪を見ているロイドとコレット。 ロイド達は、氷の精霊セルシウスとの契約のため、この地を訪れた。 生まれも育ちも、雪の降らないシルヴァラントであるロイドとコレットは、白く輝く雪が珍しくて、大いにはしゃいでいた。 「ロイド、コレット。暖かくしていなくては、風邪をひいてしまうわよ」 美しい銀の髪をかすかにゆらしながら、すこし厳しい、けれど優しい口調でリフィルが言う。 「へ〜い」「は〜い」 ジーニアスも、ロイドとコレット同様雪が珍しいだろうに、プレセアと暖炉の前で何かしゃべるので精一杯の様子。 リーガルは、熱心に武器の手入れをしている。 ゼロスはと言うと。 ロイドとコレットが外を見ていた窓へと向かい、雪を眺めていた。 雪、か 自然と表情がゆがむのを、抑えられなかった。 こりゃだめだ そう思い、何も言わずに部屋を出ようとした。 「ゼロス、どこ行くんだ?」 ロイドに尋ねられ、笑って適当な事を言う。 暗くならないうちに帰って来いという、リフィルの命を受け、笑いながら外へ出た。 そして、ゼロスの様子を見ていたしいなが、後を追うように外へ出た。 仲間達に、どこへ行くかの質問さえさせずに。 ゼロスの、あの顔が気になったから。 窓の外を見て、かすかにゆがんだあの顔が。 雪を踏んだ時の、さくっという音さえも忌まわしく感じる。 次から次へと降り止むことを知らぬような雪が、ちらちらと赤い色に見えて忌まわしい。 忘れる事などできない、あの瞬間。 今も、鮮明に思い出せる。 倒れる母。 赤い雪。 あの言葉。 『お前なんか生まなければ良かった』 「ゼロス」 不意に背後から名を呼ばれ驚く。 振り向かずとも分かる、声の主。 「しいな」 視界に入ったしいなの顔は、あまり良い表情ではない。 「どうした?しいな。まさか俺様のこと、心配して来てくれたとか〜?」 「・・・まぁ、そんなとこ」 「へ?しいなが俺様を心配してくれるなんて、感激だぜ〜♪」 「べっ・・・別に・・・そんな、たいしたことじゃ」 「いやいや〜、それがたいしたことなのよ〜♪」 「ったく。やっぱ心配なんかするんじゃなかったよ!」 あんたがつらそうに見えたから、心配したってのに ゼロスは笑った。 ひとしきり笑って、空を見た。 雪降る空は、黒く濁っている。 ゼロスの口が自嘲ぎみに笑うのを見て、しいなは、自分の胸に黒いシミのようなものができた気がした。 「なぁ、しいな」 「なんだい」 ゼロスは空を。否、雪を見ながら問い、しいなはゼロスを見たまま返事をした。 「しいなは、雪って好きか?」 「雪・・・かい?」 そこで、しいなはゼロスから目を離し、雪を見る。 空から、止めどなく降る雪。 「別に嫌いではないけど。特別好きってわけでもないサ」 「そうか」 「ゼロスは、どうなんだい?」 聞いてはいけなかったことかもしれない。と、しいなは思った。 いかな情報も入手する、ミズホの民たるしいなが、ゼロスの過去を知らないわけはなかった。 あの雪の日の惨劇を。 「俺様か?」 相変わらずゼロスは雪を見たまま。 「俺は・・・嫌いだ」 そう言って、ゼロスは俯いた。 「俺の目の前は、いつも真っ白でよ。まるで雪だ。ちっとも俺の前から消える気配がねぇ」 しいなは、ただゼロスの言葉を聞いていた。 「いつか、雪に埋もれちまうんじゃねぇかって・・・」 怖いんだ 恐怖を隠すために、弱さを隠すために、仮面をとり、自分を殺した。 それを、宿命として。 「でも・・・」 そこで、やっとしいなが口を開いた。 ゼロスが顔を上げ、初めて目と目が合った。 「でもサ・・・。雪は、いつか必ず溶けるじゃないか」 当たり前のことを言った。 「雪が解けたら、花が咲くよ」 「花?」 「そうサ。暖かくなるんだよ」 しいなは笑った。 ゼロスの凍てついた過去が解けて、心が暖かくなってほしいと願いながら。 「そっか・・・そうだよな」 ゼロスも笑った。 「かぁ〜俺様ってば、なぁ〜にを言ってんだか」 あの日から降り続く雪。 真っ白なんだ。 でも、いつかちゃんと解けるから。 雪が解けた後、暖かく美しい花が傍に咲いてくれれば。 「はっくしょん!」 「おいおいしいな〜。もっと色気のあるくしゃみは出せねぇのか〜?」 「なんだい、色気のあるくしゃみって!!」 「まぁまぁ、風邪ひく前に宿に戻ろうぜ」 「賛成」 冷たい雪を身体に浴びながら、宿へと戻る。 途中、ゼロスは立ち止まり、暗い色の空を仰ぐ。 自分が、選択を誤らないように、花に見守っていてほしいと思いながら。 足取りが止まったゼロスをいぶかしみ、しいなが声をかける。 「なんでもねぇよ」 と言って、優しく笑った。 雪はまだまだ降り続く。 白く輝くそれは、積もり積もって地面の色を変える。冷たい風が、吹き抜ける。 でも、しいなは満足気に笑って、ゼロスは、どこか幸せそうに笑ってた。 END 2005年12月執筆 2008年3月修正 友人からのリクエストでした。 あぁ…やはり昔の作品は拙い!当然、現在だって拙いに決まっているのですが…。 これはフラノールで不機嫌全開のゼロスを、なんだか能天気なしいなが元気にしちゃう!という感じですね。 ゼロしいはいつもお互いがお互いを支えているのが好きです…ッ! では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月8日 |