雪がひっそりと降り続ける しんしんと 私の心にも降り積もる 永遠に溶けることはないのだろうか 雪の心 一面の白に暗い空。 年中幻想的な雰囲気を味わえるのが、ここフラノールだ。 白い街の中で佇む。 自分は空虚だ。 プレセアはたったひとり、雪をかぶりながら街の中心で佇んでいた。 その頃、宿。 「ロイド!プレセアを見てない?」 「プレセア?いや、見てないけど」 「そっか・・・どこ行っちゃったのかなぁ」 愛しき少女の姿を求め、奔走している少年がいた。 言わずもがな、ジーニアス。 ジーニアスが言うことには、宿に着いてすぐにプレセアはいなくなったらしい。 「別に腹が減ったら戻ってくるだろ」 「ロイドじゃあるまいし・・・」 プレセアの所在を知ろうと人に尋ねてみたが、結局のところ、得られた情報はやはりロイドに聞いたのは間違いだった、ということそれだけ。 「プレセア・・・どこ行ったのかな」 姉と同じ白銀の髪を揺らし、ジーニアスは窓から暗い寒空を見上げる。 降り止むことのない雪が、ジーニアスの不安を掻き立てる。 「う〜〜寒っ!」 ジーニアスはプレセア捜索をついに宿の外で行うことにした。 宿での目撃情報はなく、街のどこかにいるとしか思えないのだ。 「・・・」 なんでこんなに心配になってるんだろう ふと首をかしげる。 街の中なんだし、なにもそんなに不安にならなくても・・・ 最もな考えだと思った。 彼女の姿が見えなくて何故か胸がざわついたが、残念ながらプレセアは自分よりも強い。 何をそんなに不安になっているのか。 でも・・・心配なものは心配だし ジーニアスはコートの前をぎゅっと掴んで、街へと駆け出した。 「パパー!」 「よくできたなぁ、すごいぞ!」 ひとりの少女が小さいながらも立派な雪だるまを作っていた。 大きさも形もいびつだが、とても可愛らしい。 少女の父が、その雪だるまを見て少女の頭を優しく撫でる。 あたたかい光景・・・ 家族の暖かい繋がり。 その様子を見ていたプレセアの心は、先程よりも格段に冷たくなっている。 雪が降り積もるように。 他にも、街には暖かいものが溢れている。 まぶしい程に。 私は・・・こんな所にいてはいけないのでは・・・ 人々は強い繋がりである絆を持ち、生きている。 その中で、自分は「余分なもの」である気がしてならなかった。 雪は降り続ける。 「プレセア!!」 唐突に名を呼ばれてぎょっとする。 振り返ると、すぐ背後に息を荒げたジーニアスが立っていた。 「ジーニアス。どうしたのですか?」 「はぁ・・・はぁ・・・それはこっちの台詞だよ」 プレセアは、ジーニアスの息遣いが落ち着くまで、口を開かないでいた。 「もしかして、私を探していたのですか?」 「そうだよ。急に宿からいなくなっちゃって・・・せめてどこに行くかぐらい言っていってよ」 「・・・すいません」 小さく表情を変え、プレセアは謝罪した。 「・・・ジーニアスは、何故私を探していたのですか?」 「そ、そんなの・・・プレセアのこと・・・し、し、心配だから!いくらプレセアが強いっていっても、女の子なんだし」 「・・・そうですか」 プレセアはきょとんとした。 ジーニアスの想いが伝わったのか定かではない。 段々と、自分は何を言っているのかと、ジーニアスの中に羞恥心がつのり、プレセアを面と向かって立っているのが恥ずかしくなってきた。 ちらと彼女を盗み見る。 雪の中に立つプレセアは、どこか現実離れして見えた。 「くしゅん!」 プレセアの可愛らしいくしゃみの音で、ジーニアスは我に帰るようにハッとした。 「さ、寒い?プレセア。早く宿に戻ろう!」 「そうですね。これ以上、この寒空の下で活動するのは得策ではありませんね」 よし、じゃあ戻ろうと言いながら、ジーニアスはほぼ無意識にさっとプレセアの手をとった。 冷たい。 プレセアはジーニアスに手を引かれ、一歩後ろを歩く。 つながれた手から流れてくるものを感じる。 あたたかい手・・・ 「・・・ジーニアスの手はあたたかいですね」 「え?・・・あ!ご、ご、ご、ごめん!」 ジーニアスは自分が何をしていたのかを今更理解したようで、顔を赤らめながら手を離した。 プレセアは、先程まで冷たかった自分の手を眺める。 私はまだ、空っぽではないのかもしれない 今度こそ失わない・・・ ぎゅっと握る。 「プ、プレセア?」 「・・・ジーニアス」 今度はプレセアから手を伸ばし、ジーニアスの手をとる。 彼は小さく悲鳴にも似た声を出した。 「帰りましょう」 「え・・・あ、うん!」 今度はふたりで並んで歩く。 ジーニアスは顔を真っ赤にして、気が気でなくなっていた。 そんな彼を尻目に、プレセアの心の中には新しい気持ちが姿を現していた。 失うものはもうなにもないと思っていたが こんなすぐ傍に失くしたくないものがあったのだ このあたたかさを ずっと握り締めていたから ひとりになるのは もう嫌だから 雪溶けは、そう遠い未来の話ではない。 END 2006年9月執筆 2008年3月修正 ジニプレで甘々…というリクエストだった作品…なんですが…。 間違いなく砂糖加減を間違えたものに。 ジニプレ初書きでびくびくおどおどしながら書いてましたが、新鮮で楽しかったです。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月11日 |