嘘つき下手な彼


「うう・・・」

頭を抱えて唸る少年。
まるでひどい頭痛でも起きたかのように。

「くっそ〜・・・」

しかし実際は頭痛なんかではない。
少年の頭を悩ますものは・・・

「節約って・・・難しいなぁ・・・」

結構庶民じみていた。









嘘つき下手な彼









「ルーク?頭痛でもするの?」
「え、あ、なんでもねぇよ!」

満天の星空の下での野宿中。
皆は既に寝入っているのにも関わらず、何かを見ながら唸っているルークを心配し、ティアは声をかけた。

「・・・日記・・・ではないわよね」
「うわっ!み、見んなよ!」
「ごめんなさい。でも・・・なにか悩んでいるの?話してくれない?」
「ごめん・・・これは言えない」

優しく声をかけてくれるティアに、申し訳ないといった表情のルーク。
ティアも彼を困らせたいわけではないので、身を引く。

「・・・早く寝てね」
「うん・・・ありがとう」

と言ってもルークがすぐ眠るわけもなく、また何かを見て唸りだす。
ティアはひどく心配になる。

明日・・・ガイにでも聞いてみようかしら

きっとガイなら何か知っていると思った。
だが同時に、何か知っていたといても教えてくれるとは思えなかった。




「というわけなんだけど、何か知らないかしら」

と、ティアが話しかけた瞬間に約半径1メートルは彼女から離れたガイ。
わかっているとは言え、なんとなく複雑な気持ちになる。

「いや〜俺は知らないな」
「・・・何か隠してない?」
「隠してないって」
「・・・まぁいいわ。どうせ教えてくれないだろうし」
「悪いな」

なんだか悔しかった。
ルークはいつだってガイを頼りにする。
悩み事もガイに相談することが多いと思う。
それは同姓の方が言い易いこともあるだろうとは思うが、自分のことも頼ってほしいと思う。

焼きもちかしら・・・

なんだか少し自分が情けなくなるティア。




「今日の買出し当番はルークだったよね」
「そうだったなぁ・・・あのさ、アニス。ついて来てくれねぇか?」
「へ?なんで私が〜?」

ルークの申し出に、アニスは素直に疑問をぶつけた。
今日の当番はルーク。アニスは関係ない。

「その、さ・・・」

ルークはちらと横目でティアの方を見る。
聞かれていないか不安そうな子供の表情で。

「なになに、ティアに聞かれちゃマズイこと!?」
「し〜!・・・理由は後で話すからさ〜アニス様〜」

“様”をつけて呼ばれ反応しないわけがないアニスは、しょうがないな〜と言いながら楽しそうにルークと出かけた。

その様子を見ていたティア。
今度こそ焼きもちだろうと自分で理解しながら、胸を痛めていた。




「で、なんなのなんなの!?」
「だああああちょっと待てって!」

道具屋に入っていなや、アニスはルークに飛びつきそう問うてきた。
ルークはただ焦る。

「・・・俺、節約したいんだ」
「節約・・・まぁそのためにアニスちゃんと買出しに行くって手は、ルークにしてはいい手段だね」
「褒めてんのか?」
「褒めてま〜す」

ちゃかすように言うアニスは、とにかくこの状況を楽しんでいる。
しかしルークは真剣。

「で、節約したい理由は・・・ズバリ!ティアに何か買ってあげたいからでしょ!」
「うぐっ!・・・なんでわかったんだよ」
「まぁなんとなく」

だいたい、ルークは嘘をつくのが苦手なんだからわかりやすいんだ、とはアニスは言わなかった。
話をややこしくしては、節約の理由が聞き出せなくなる。

「その・・・だな」

ルークは何を心配してか、アニスの耳元に口を寄せて話し出した。
別に気にすることはないと思うが、彼自身なにか不安なのだろう。

「ふんふん・・・な〜るほど☆それならアニスちゃんは協力したげるよ〜」
「ホントか!?」
「た〜だ〜し」
「ただし?」

ルークは息を呑む。
お金に五月蝿いアニスが協力してくれれば非常に有難いのだが・・・

「当分、ルークは私の下僕ね」
「・・・は?」

にっこり笑顔のアニスに、きょとんとした顔のルーク。

「だって〜協力してあげるうえに、ティアにも黙っててあげるんだよ〜?」

当たり前と言わんばかりのアニスに、ルークは反論できるわけもなく。

「・・・わかりました」

ただ、従うしかなかった。




数週間が経った。
その間のルークと言えば、アニスにこき使われて見ているこっちが辛くなるようだった、と、ガイ。

ティアもずっと胸を痛めていた。
何故かアニスに文句も言わずに従うルークが心配であった。

しかし、それも今日で終い。

「皆、悪いけどグランコクマに寄っていいか?」
「グランコクマ?今、用事はないんじゃないの?」
「ちょっとだけだからさ」

ルークがどうしてもと言うので、一同は水の都市グランコクマへ向かった。




街に着くやいなや、ルークは走って目的の地へ向かった。
それこそ疾風。

「ティア、ルークを追ってやってくれないか?」
「え?・・・私が・・・わかったわ」

唐突にガイからそう頼まれ、何か意味があるのだろうと考えルークを追った。




「ティア!」
「ルーク・・・」

追いかけてきたティアを見て、ルークは子供のような笑顔を見せた。
ティアはどきっとする。
そして、同時にルークが手に何かを握っているのを見つけた。

「ルーク・・・あなた」
「これ」
「?」

ルークはティアの言葉を遮り、彼女の眼前にある物を差し出した。

太陽の光を浴び、それ以上に鮮やかな光を放つもの。
ペンダント。

「これ!・・・私の」

そう。ティアの・・・彼女の母親の形見のペンダント。
もう自分の手には戻らぬと諦めていたもの。

ルークはそっとティアの手をとり、ペンダントを彼女に渡した。

「まさか・・・ルーク、これを買い戻すために!?」
「え、いや、なんつーか・・・〜〜っ」

恥ずかしそうに頭を掻くルークの顔は赤い。

「まぁ・・・俺には、これくらいしかできないからさ」
「・・・ばか」

これくらいなんかじゃないわよ
十分すぎるくらいだもの

「・・・ありがとう」

しばらく苛まれた胸の痛みもとれ、嬉しくて嬉しくてティアは少しだけ泣きそうになった。

END

2006年8月執筆
2008年3月修正

ベタだが、それこそルクティアなんだと言い張ってみる!
アニスの下僕となると相当しんどいことになるのでは…(笑
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日