目を閉じた暗闇の中で、体はひどく気だるい。 熱いのか寒いのかも判断できない。 ただわかるのは、手を握られているというぬくもり。 てのひらのおまじない 重い瞼を開くと、ティアの周囲に人はいない。 上半身を起こそうとすると、不快なだるさが襲ってくるため起き上がれない。 体の上に何枚も重ねられた毛布が暖かい。 寝ぼけた頭を動かし考える。 あぁ・・・そうか私 どうのくらい眠っていたのかしら ティアは、自分が戦闘中に倒れてしまったことを思い出した。 数日前から風邪のような症状が出ていることには気付いていた。 放っておいたら、あっという間に熱が上がりついには倒れたという始末。 はぁ・・・情けない・・・ いつから眠っていたのかも全くわからない。 空は夕暮れの色をしているが、それだけでは時間はわからない。 ティアは、茂みの中の小さく拓けた場所で寝ていた。 目的地へ向かうのを止め、野宿になってしまったのだとすぐに理解できた。 皆に迷惑をかけまいと病気のことなど放っておいたが、逆に迷惑になってしまったようだ。 「ティア!」 そう呼ぶ声がして、茂みから音をたてて顔を出したルークを見つけた。 小走りにルークはティアの傍へ寄る。 「起きてて大丈夫か?」 「えぇ・・・体は起こせないけど」 「そか。ったく、戦闘中に突然倒れるんだからびびったっつーの」 「ごめんなさい」 「でも、本当に大丈夫なのか?ジェイドはただの風邪だろうっつってたけど」 「大丈夫よ」 心配そうな顔をするルークに、ティアは申し訳ない気持ちでいた。 「少し前から風邪っぽかったらしいけど・・・」 「え・・・」 「ジェイドが言ってた」 流石は死霊使い殿といったところか。 ティアのかすかな体調の変化にも気付いていた。 「ごめんなさい・・・皆に迷惑かけたくなかったの」 「迷惑なんかじゃねぇよ。今度病気になったらすぐ言えよな!」 「・・・わかったわ」 ティアにはいつもとは逆に自分がルークにお説教を受けている事が、実に奇妙でおかしく感じられた。 「そうだ、なんか食べる物作ってくるよ。もちっと寝てな」 「えぇ。ありがとうルーク」 ルークが優しいという事はよく知っているが、身をもって知るとなんだか面映ゆい。 しばらくして、ルークは小さな器に入ったおかゆを持ってきた。 アニス特製らしいが、何故かルークが得意げに運んできた。 また少し眠ったティアの体からは、わずかだが気だるさが抜け、上半身を起こすことは可能だった。 ルークはティアの傍らに腰を下ろし、一緒に持ってきたスプーンでひと口分だけおかゆを掬う。 作りたてのため、息を吹きかけ冷ます。 そして、スプーンに乗ったおかゆをほんの少し口に入れ、食べごろか確かめる。 ルークは大丈夫だという表情をうかべ、まだひと口分残っているスプーンを、ずいっとティアの口元にさし出した。 「ん」 「え・・・」 言わずもがな、それは俗に言う「あーん」という行為である。 「ルーク、私自分で食べられるわ!」 「いいよ、無理すんな」 それ程無理をしているつもりはない。 だが、いまだ体がだるいのは事実。 仕方なしに、ティアはさし出されたスプーンへ口を持っていった。 口内に入ったおかゆは、とても食べやすかった。 ルークが冷ましたうえで、温度を確かめてくれたからだ。 そこで、ティアはひとつの事実に気が付いた。 つい先程ティアが口をつけたスプーンは、そのほんの少し前に、ルークも口をつけていたのだ。 それを、世はなんと呼ぶか。 わ・・・私・・・間接・・・!? 頭で考えるだけでも気恥ずかしいその言葉のおかげで、すっかりティアの顔は赤くなってしまった。 「ティア、顔赤いぞ。熱上がってきたんじゃないか?」 「え、そ、そんなことないわよ!」 多少なりともティアの声は裏返ってしまう。 「また寝てた方がいいぞ」 「え、えぇ・・・そうするわ」 この熱さを消すには、眠ってしまった方がいい。 いや、逆に眠れないかもしれないが。 ティアは目を瞑り、眠ろうと意識を集中する。 その瞬間、手があたたかくなるのを感じる。 ふと、前にも同じ感覚を覚えたことを思い出す。 目を開けてみると、傍らのルークが両手でティアの手を握っていた。 「ルー・・・ク?」 「あ、ごめん。嫌ならやめるけど」 「ううん。かまわないけど・・・」 むしろずっと握っていてくれる方が嬉しい。 ルークの手はあたたかく、優しく包み込んでくれる。 先ほどまでの煩わしい熱さが覆い隠されてしまう。 「ねぇルーク。あなた・・・さっきもこうやって、私の手を握ってくれていた?」 「え!あ・・・うん・・・なんだティア起きてたのか」 起きていたわけではない。 ただ目を閉じた闇の中で、掌に感じていたあたたかさがあったのだけは覚えていただけ。 「・・・昔、よく俺が病気になった時、母上がこうして手を握っていてくれたんだ。早くよくなるおまじないだって」 「そう・・・」 これもこれで気恥ずかしさがあるものだが、あたたかい陽射しの下、日向ぼっこをしているといった気分になれるから不思議だ。 自然とティアは、深い眠りにおちていった。 数日後、ティアの風邪をもらってしまったのか、今度はルークがダウンした。 寝込むルークの傍らで、彼の手をしっかりと握るティアの姿があったとかなかったとか。 END 2006年5月執筆 2008年3月修正 ルクティア風邪ひき話。 さらにそこに間接キスとか他のネタまで入れちゃうとか。 や、でも、楽しかったんですよ(笑 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月13日 |