天使のデュエット


ジェイドの言うことを信じてはいけないとティアに言われたけど
これだけは本当だと思うんだ









天使のデュエット









「大佐、ルークに変なことを教えないで下さい!」
「いや〜なんのことだかわかりませんね〜」
「そうですよね。思い当たるふしがいくらでもありますものね」
「その通りです」

ジェイドを問い詰めるティア。
落ち着き払っているジェイドは飄々としている。
ティアはため息をひとつついてから続けた。

「今度はなにを教えたんですか?なんだかルークが私を見てくるものだから気になってしまいます」
「あぁ、それはですね〜きっと・・・」





本日の野営場から少し離れた川岸。
小さな赤や白の花が咲き乱れ、風に踊る。
夕食を終え、ルークはひとり川を眺めていた。

今日ジェイドが言っていたことが気になってしかたなかった。

いつものジェイドの言葉には、妙な怪しさと信憑性が混同して漂う。
ただ、今回教えられたものは信じられる気がしていた。
いや、真実だと確信していた。

「ルーク?」

背後から来る気配と声に振り返る。

「ティア」

どこか呆れたような顔をしたティアは、ルークの傍まで来て口を開いた。

「あなた、大佐の言ったことを信じてるの?」
「・・・悪いか?」
「悪くはないけど・・・人間は皆、目に見えない翼を持った天使だなんて話」
「俺はホントだと思うけど」


『人間は皆天使なのですよ。目に見えない翼を持っているのです』


昼間のジェイドの声が甦る。
あのジェイドにしてはファンタジックというかロマンチックな話であった。

見えない翼を持つ天使。
あながち嘘ではないと思うのだ。

「大佐の言うことを本気にしては駄目よ」
「ホントだと思うんだけど・・・」
「・・・その確信は一体どこからくるの?」

夢物語のような話。
そんなものを信じる理由がティアにはわからなかった。
尋ねられたルークはニッと笑い、ティアを見つめた。
そして、左手の人指し指を立て文字通りその指でティアを指した。

「?・・・私?」
「そう。俺の天使」
「えぇ!?」
「あ・・・いや・・・なんつーか・・・」

自分で言っといてなんだけど、恥かしいセリフを吐いたもんだと感じる。
すっかりティアも仰天してしまっている。

「その・・・ティアと出逢わなかったら俺・・・」
「・・・ルーク」

あの時、ティアと出逢わなかったら。


自分は今とは随分違う道を歩んでいたはずだ。
師匠に利用されて、なにも知らずに死んでいたかもしれない。
この世界のことも、誰かを想うことも知らずにいたかもしれない。

ルークにとって、それだけティアの存在は大きなものであった。
それこそ、自分の人生を変えてくれた天使なのだ。
そのことを稚拙な言葉でティアに伝える。
するとティアは驚いたという顔をしていた。

「ティア?」
「あ・・・その・・・」

いつもなにがあっても泣かないティアの瞳から、一粒の雫が落ちた。
今度はルークが仰天する番だった。
わけがわからずルークはただ焦る。

俺、なんかまずいこと言ったのか!?

「・・・ティア?」

恐る恐る声をかける。
ティアは涙を拭いながらかすかに笑う。

「ご・・・ごめんなさい。泣くつもりじゃ・・・」
「俺・・・なんか変なこと言ったか」
「いいえ」

ますますわけがわからなくなる。
微笑みながら涙を流す、その理由が全くわからない。

「嬉しかったの・・・」
「嬉しい?」

ティアの口から出た言葉は、ルークにはなんのことだか理解できなく、ただ鸚鵡返しになるだけ。

「私、あなたには迷惑しかかけていないと思っていたわ。だから・・・」
「ばっかだなー。んなことねぇに決まってんだろ」
「ば、ばかとは何よ!」

理解できないわけだ。
ルークにとって、それは実に馬鹿げたことだったのだから。

「だってばかだろ。俺は迷惑だなんて一度だって思ったことないからな」
「・・・そう・・・」
「ティアと出逢えて・・・ホントに良かったって思うんだ」
「・・・ありが・・・とう・・・」

ティアは再び涙を流してしまう。
今までの自分の思いを否定してくれるルークに、ただひたすら感謝した。

「もう泣くなよ」
「ごめんなさい・・・でも・・・とまらな・・・」

ルークはそっとティアに歩み寄って、自らの指で彼女の涙を拭い取る。
溢れ続ける涙を、ルークは決してティアの頬につたわせない。

「ごめんなさい・・・」
「謝るなっつーの」

やっとティアが微笑む。

ルークはそっと口付けをする。

「ル・・・ルーク・・・」

触れるだけのようなキスでも、顔を真っ赤にしてしまうティア。
もちろんルークも赤い顔をしているのだが。

「俺の・・・俺だけの天使」

そう小さく呟きながらティアを抱きしめる。
夜に眩しい月の光だけがふたりを照らす。
ティアはただ幸福だった。
ルークはこの時、抱きしめる彼女に対する強い独占欲が胸に生まれるのを感じた。

彼女は自分だけの天使だと叫んでやりたかった。

しかし、そんなことをすればティアに怒られるのは目に見えている。
だから、ルークはただ強くティアを抱きしめた。

END

2006年2月執筆
2008年3月修正

こちらもルクティア甘々のリクエストだったものです。
だから無理すんな自分。
自分だけでなくルークにも無理させんな(笑
でも、天使…というとなんだか恥ずかしいですが、ルークにとってティアはそれだけ大きな存在だということなんです!
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月12日