盾の意思


盾の意思


俺がまだ17歳の時だった。
ちょうど4年前になるな。

となると、お前は13歳か。
いや、3歳になるのかな。


まだ、あの時の俺には『ルーク』に対する黒い感情があった。
言うなれば、憎しみや殺意。

「なぁガイ」
「なんだ?」

いつ自分に刃を向けるかもわからない俺に、お前は何の警戒も無しに話してきたな。
ま、当然か。
あの頃のお前には、俺やヴァンしかいなかったんだな。

「お前は何でこの家の使用人やってんだ?」
「色々あるんだよ」
「ふ〜ん」


誘拐され、そして再びこの家に戻ってきたお前は、今までの『ルーク』とは別人のように異なっていた。
まぁ、結局は本当に『別人』だったんだがな。

全ての記憶を失くした状態だったお前は、俺にとっては奇妙なものに見えた。
両親の事も、とても想っていただろうナタリアの事さえもすっぱりと忘れていた。
もちろん、俺のことも忘れていた。
・・・ヴァンを慕うとこは変わらなかったな。

あんなに国を、ナタリアを想っていたはずの『ルーク』ではなくなっていた。

最初は戸惑ったが、それが俺の興味を引いたんだな。


今までの『ルーク』には憎しみばかり抱いていた。
でも、それよりも興味の方が勝った。



俺にはひとつの『盾』があった。
それは憎しみで塗り固められたやつだ。
やたらと重いし、見た目も褒められたもんじゃないね。

その『盾』は、俺の心を守るためのものだ。
何があっても揺るがぬようにするため。
昔の俺は、その『盾』を『強さ』だと思ってた。


仇の息子になんか興味はなかった。
だが、今の『ルーク』ならと思った。



この『盾』をお前は壊せるか?



「なぁルーク。賭けをしようぜ」
「は?どんな賭けだよ」
「お前が、俺の忠義を全てかけるに値する奴になるかどうかだ」

結局お前はあの賭け自体忘れてたな・・・。

『もしかしたら』

そう思ったんだ。

『お前なら』



大切な人も家も何もかも失くした時だった。
あの時から、俺は持たないはずの『盾』を持った。
ただひとつの目的のために。
情など持たないために。


そのおかげで、ずいぶん深いとこまでいっちまったんだ。
もう這い上がることはできないくらい。

でも、一度落ちきったら、後は跳ぶだけだ。



この数年で、俺は目に見えて変わった。
胸張って言えると思う。

『盾』は『弱さ』を隠すためにあった。
そう気付けたんだ。
本当は、もう少し早く気付きたかったんだがな。


結局どうなったのかって?
まぁ・・・色々あったんだ。

その間に、俺もお前も随分変わったな。

でも、俺には変わらないものもあった。

『お前なら』
そう思ったあの感情は今じゃかなりでかくなったんだぞ。
今思うと、あの感情に名前を付けることができる気がするわ。

「ルーク」
「ん?」
「・・・」
「なんだよ」
「・・・なんでもねぇ」
「は?」



やっと俺の手に戻った、家の宝である剣を見て思う。

俺がここに至るまでの道は、預言によって定められていたのかもしれない。

だがどうだ?
俺の気持ちはこんなにも変わったんだ。

定められたものじゃない。
これは俺の意思だ。


重くて不格好な『盾』なんか、自分で棄てちまったよ。
あんな物要らなかった。
この剣と、意思があれば貫ける。


なぁルーク。
お前は今、先の見えない霧の中に居るかもしれない。
俺がそうだったように。

悩み、苦しみ、時には自分さえもわからなくなる。

でも、俺は何があってもお前の味方だからな。

END

2006年5月執筆
2008年3月修正

キリ番リクエスト、17歳の時のガイの想いでした。
ガイさん好きの友人のリクエストだったんですよね。
…彼は複雑な心境を持っている人なので、表現するのは難しかったですね…。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日