47 その瞬間 桜の日-ゼロしいver- 「よっ!しいな」 「あんたねぇ…また来たのかい?」 「おうともよ」 いつもと変わらぬ陽気さを惜しみなく振り撒きながらゼロスはミズホの里へやって来た。 それは、最近では見慣れた光景。 「仕事はいいのかい?」 「おう」 「…どうせサボってるんだろ」 「いいんだよ。少しぐらい休息の時間がなくちゃあ、仕事もはかどらねぇぜ」 なにが少しの休息だい 実のところ、ゼロスはここ数日、毎日ミズホへ足を運んでいるのである。 目的は、里中に咲き乱れる桃色の花、桜である。 開花してからというもの、ゼロスは毎日桜を眺めにやってくる。 「やっぱいいね〜サクラは」 「とか言いながら、酒を飲むのが本当の目的だろ」 「でひゃひゃひゃ!しいな、わかってるね〜」 ため息が漏れるのを禁じ得ない。 桜が綺麗なのは確かだ。 この季節しか目にすることができないことで、人を魅了する。 だらかって、仕事をサボっていいわけじゃないんだけどね とは思いつつも、ゼロスの好きにさせているのは、彼は影で努力をする人間だとわかっているからだ。 やはり、たまの休息ぐらいは必要なのだ。 その空間を自分の判断で提供してやれるのならば、少しぐらいの妥協は許される。 「しっかし…こう毎日毎日…飽きないのかい?」 「あぁ。飽きねぇな」 満開の桜をじっと見つめながら、ゼロスは心底幸せそうに呟いた。 なかなか見られない表情に見えた。 「楽しめる時に楽しんでおかないと損だろ?」 今度はいつもの陽気な笑顔になる。 「それによ…今、この瞬間を大事にしたいって思うんだよ」 「……」 「サクラが咲いて、なんもない時間に…お前と一緒の時間を…な」 「……そう」 「なーんてな、俺らしくないか?」 「いや…いいんじゃないかい?」 ちょっとだけ切なそうな横顔を見せたゼロスは、やっぱり色々なものを抱えているのだと思う。 相変わらず弱音は吐かないけれど、辛い時もあるのだと思う。 なら、ちょっとぐらいの休息は必要だよね? ゼロスが、自分と過ごす時間の中で少しでも安らげるのならば、惜しみなく傍にいよう。 満開になった桜が、次第に散っていくように、きっとまた忙しい毎日が戻ってくる。 それでも、一緒にいた時間が、心に力をくれるから。 END ED後、ほのぼのしていてくれたらもう幸せです。 |