「よ〜し、今日もいっぱい採るぞー!」 「張り切るのは良いが、怪我をするでないぞ」 「そんなに子供じゃないよ!」 町から少し離れた森にやってきたフェアとセイロン。 ナイフやら籠やらを持って出かける目的は唯一つ。 「しかし…食材探しとはな…」 「文句言わずに手伝いなさい」 「…わかっておるよ」 以前はアロエリが沢山の食材をどこからか調達してきてくれていたが、今はそうはいかない。 大幅に減ったとはいえ、未だ居座っているタダ飯食いの男を連れて、フェアは食材探しへと出発した。 森に到着し、順調に食材を集める二人。 なんだかんだでセイロンも立派に働いてくれる。 まぁ、居候の身分を考えれば当然よね しかし、先に異変に気がついたのはセイロンであった。 「店主殿、動くな」 「え?」 そう言われて、フェアも自分達の周囲の異変に気がついた。 囲まれてる… 辺りに人ならざるもの気配が満ち、こちらの様子を窺っているのがわかる。 フェアとセイロンが背中を合わせて構えたところで、相手の方が先に飛び出した。 メイトルパのはぐれ召喚獣であった。 たいした相手ではないだろうとフェアはすぐに動き出す。 敵と刃を交えてすぐに気がついた。 体が…思うように動かない…ッ!? 理由はすぐに思い至った。 あの激闘の日々が終わりを告げてから、忙しさにかまけてすっかり鍛練を怠るようになったから。 それにしても、こんなに動きに支障が出るとは思ってもみなかった。 動きの鈍いフェアに気づいて、セイロンが彼女より前に出る。 そして、フェアをかばってセイロンが敵の攻撃を受ける。 「店主殿は我の後ろに!」 「セイロン…!」 悔しかった。 けれど、ここでわがままを言って彼の隣に立ったとしても、足手まといになるのは明白で。 私…バカだ… 自分の浅はかさを嘆いてみても後の祭り。 ただ、セイロンに守られることしかできないでいた。 「セイロン、大丈夫!?」 「我は平気だ。店主殿は?」 「…ッ!」 敵を一掃した後、セイロンはすっかり傷だらけになっていて、フェアは涙をこらえるのに必死であった。 自分の方がひどい怪我をしているのに、フェアのことを心配するセイロンの優しさが憎らしい程に。 少なからず傷を負ったフェアを見て、セイロンは精神集中を始めた。 フェアにストラを施そうとしている。 「セ、セイロン!あなたの方がひどい怪我なんだから、私よりあなたを」 「いいのだよ」 「でも、私のせいでこんなことになったんだもの。私よりセイロンの手当を先に」 「フェア」 セイロンはフェアの言葉を遮り、ただ彼女の名前を呼んだ。 すると、フェアは何も言えずに固まることしかできなくなった。 ずるい… 普段は絶対に名前で呼ばないくせに。 彼はどんな場面で名前を呼べば効果的か心得ているのだ。 ただ名前を呼ばれるだけなのに。 その低く落ち着いた声で、諭すように、でも優しく呼ばれて、逆らえるわけがない。 何も言えなくなったフェアに、セイロンはゆっくりとストラをかける。 ストラのその暖かさが、そのままセイロンの優しさを現しているようで。 普段から、口で優しいことは言わないくせにね それが彼なんだとわかっている。 「もう良いぞ」 「う、うん…ありがとう」 結局、食材探しは散々のうちに終わりを迎えた。 「もう、あちこち傷だらけにして…」 家へと戻った頃にはフェアは体力を取り戻し始め、セイロンは疲れ切っていた。 「て、店主殿…もう少し手柔らかに頼むぞ」 「わかってるわよ!」 セイロンの手当をするフェアの手は乱暴で、セイロンは少々冷や汗をかいている。 フェアだって優しく手当をしてやらなければならないとわかっているが、どうにも心と体が反してしまう。 八つ当たり…なんて、私サイテーだよ 「はい、おしまい。今日はもう早く寝た方がいいよ」 「うむ、そうさせてもらおうかの」 「……」 「…店主殿?」 今にも泣き出しそうなフェアの表情に気づいたセイロンが、彼女の手を取る。 フェアは俯いて、セイロンと目を合わせずに口を開いた。 「ごめん…ね、セイロン、私のせいで。私、鍛練を怠って弱くなってた…私…私のせい」 「フェア」 不意にまた名前を呼ばれてフェアは思わず顔を上げてしまい、セイロンを視線が交わる。 人を射抜く真紅の双眸は、ほんの少しもゆるぐ気配をみせない。 「これは我が望んでこうなっただけだ。そなたが気に病むことなどない」 「でも…」 「言ったであろう。我がそなたを守ると」 あぁ…この人は こういう人なのだ。 自分の想いに素直で、真っ直ぐで。 心に決めたことは、何としても貫こうとする。 「…ありがとう、セイロン」 フェアが笑顔を浮かべると、セイロンも優しく微笑んでくれる。 実に満足気な表情で。 「そなたにはいつも笑顔でいて欲しい。そのためならば、我は命にかえてもそなたを守るぞ」 こういう彼だから。 好きなんだよね 今日は散々な一日となってしまったが、こんなに幸せな気持ちになれたのだから、まんざらでもないと思えた。 「あ〜あ、やっぱりまた鍛練しようかなぁ」 「やめておけ。というよりも、やめておくれ」 「え?」 「そなたがたくましくなっては、我の出る幕がなくなるであろう」 「あははは!」 「笑い事ではないぞ」 ゆっくり流れる時間に、二人が主人公の幸せを奏でる譜面。 幸せ交響曲 END 2008年6月執筆 時々だけ「フェア」って呼ぶセイロンが大好きです。 フェアはドキドキしてればいい。 ちなみに作品名は「幸せシンフォニー」と読んでくださると幸いです(笑 ED後は2人仲良く宿屋を経営してればいいと思います。 それでは、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年7月7日 |