理由


理由


「ルーファス!早く!」
「あ、あぁ」

いつからかは判然としない。
いつの間にかだった。
本当に気付かないうちに。

彼女に名を呼ばれる度に、嬉しい気分になる。

名を呼ばれる度に気持ちが明るくなって。
でも、そんな自分の状態が気に食わなくて。

ルーファスは頭を抱える。

こんなにも悩んでしまうのは“理由”がわからないから。

なんなんだよ・・・なんで俺こんな・・・

と、いつまでも自分の中でループする。





街の中をアリーシャとふたりで歩く時。
自分の横をゆっくりと歩く彼女の姿を盗み見るのが、いつの間にか習慣になってしまっていた。

俺、おかしい奴みてぇだよな・・・

自覚もしていたが、何故かアリーシャを目で追ってしまう。
そして、彼女のひとつひとつの動作やしぐさを“かわいい”と感じる。
歩き方。
ふと空を見る横顔。
店の品物を見て悩むしぐさ。
ともかく、様々な動きをいちいち“かわいい”を思ってしまう。

俺、重症だな

“理由”がわからない事が、ルーファスの混乱を加速させる。





「ルーファス。あっちにキレイなお花畑を見つけたの!行きましょう」

そう言ってアリーシャは、ルーファスの返答を待たずに彼を引っ張って行った。
その花畑を見せたいのであろう。


街から少し離れた場所にある花畑。
色とりどりの種類の花が咲き誇る。
もちろんルーファスは花の名などわからぬが、この場所の美しさはよくわかる。

沢山の花を眺めながら、幸せそうに花の中に腰を下ろすアリーシャを見つめてしまう。

そして、君に似合う花はなんだろうと本気で考えてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。
激しく自己嫌悪。

「ルーファス」

ハッと気付くと、アリーシャが目の前にいて、後ろに転びそうになったがなんとか耐える。
アリーシャが微笑みながら、そっとルーファスの頭に花冠をのせる。
白い花でつくられた、純白の冠。

「よく似合ってる」

へへと笑うアリーシャの姿に、また“かわいい”という感情を抱きながら、ルーファスも自然と微笑む。

「・・・良かった」
「ん?」
「ルーファス・・・やっと笑ってくれた。最近ずっとなにか悩んでいるみたいだったから」

その原因は君なんだけど・・・。
とは言えない。
そんなことを言えば、彼女を戸惑わせてしまうから。

「大丈夫だよ」
「・・・でも、悩み事なら相談してね」

胸に手を置いて、上目遣いで見てくるアリーシャ。
見方によっては、彼女は“美しく”もある。
可憐な花ではなく、どこか凛とした雰囲気を持っている。

「私・・・できるだけ、あなたの役に立ちたいから」

そう言って少し頬を染めるアリーシャに、ルーファスの想いは溢れてしまう。
とめどなく、塞き止められないほどの。


ルーファスは、ぎゅっとアリーシャを抱きしめた。


突然のことに、アリーシャは言葉を失っている。
しかし、それはルーファスも同じだったりする。

俺、なにやってんだよ・・・

「ル、ルーファス・・・?」


本当はわかってたんだ。


そう。
ルーファスはわかっていた。
自分がこんな風になる“理由”を。
ただ“それ”を自覚するのを恐れていた。
してはいけない事のように感じていた。

ルーファスは腕の中にすっぽりと収まってしまうアリーシャをさらに強く、だが優しく抱きしめる。
アリーシャは、恥ずかしがっているようではあるが、嫌がるそぶりを見せはしない。

期待・・・しちまうだろ・・・

「わ、悪かった」
「ううん・・・」

しばらくして、解放されたアリーシャの顔は赤く、多分自分も同じなのだろうと考えるルーファス。



あぁ
そうなんだ

俺はアリーシャが


好き
なんだ


もちろん心の中でとはいえ、言葉として表すと気恥ずかしくてならないが、幾分か胸がすっきりとした。

ルーファスは、まだ困惑しているようなアリーシャの頭に手を置き、そっと髪を撫でる。
女の子らしく、さらさらとして、手から滑り落ちるような髪。
するとアリーシャは、なんだか幸せそうに微笑む。


そう
好きなんだ
アリーシャが

でも
だからなんだ

言えるか
こんな気持ち

言えねぇよ


どうせそのうち
別れちまうんだからよ


自分の想いをくだらないくだらないと言い訳して、ルーファスは彼女への想いを隠した。

ただ、アリーシャの愛しい姿を見るたびに、こんな想いを繰り返すのかと思うと、かなりしんどかった。

END

2006年8月執筆
2008年3月修正

ヘタレ半分妖精は今日も元気です。
アリーシャが一緒ならなんでもできちゃうんじゃないですか?
でも、やっぱりヘタレなところがルーファス。大好き。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月14日