evade rhapsody 「え〜!?ティア、昔彼氏いたの〜!?」 「ちょっとアニス!声が大きいわ!」 それはそれは仰天な話に、大リアクションで反応したのはアニス。 彼女をなだめる話のネタ、ティア。 「はう〜・・・ティアも16歳だもんねぇ。元彼のひとりやふたりいたっておかしくないか〜」 「べ、別にふたりもいないわ!」 「で?で?どこまでいったの!?」 「え・・・」 アニスの率直な質問に、ティアは顔を赤らめてしまう。 13歳という好奇心旺盛血気盛んな年頃のアニスは、ずいぶんとティアに迫る。 「と、ともかく、この事は誰にも言わないでね?」 「だ〜いじょうぶ♪アニスちゃんは秘密を守るいい子ちゃんだもん☆」 アニスは満面の笑みを浮かべつつ、両手の人指し指を頬にあてる。 ティアの胸に一抹の不安がかすめる。 「ちょっとちょっとル〜ク〜♪」 「ん?どうしたアニス」 「ルークに重大ニュースだよ!」 「な、なんだよ・・・」 「私が言ったって絶対誰にも言わないでよ!」 アニスは野宿の準備をしていたルークに飛びつくように話しかけてきた。 彼女はルークの耳元に口をよせ、囁く様にその重大ニュースをぶちまけた。 「ティア、昔、彼氏がいたらしいよ」 「・・・は!?」 アニスの予想以上に驚くルーク。 しかし、なるべく平静を装うとしている。 「べ、別にそんなん昔の事だろ・・・。だ、第一俺には関係ねぇ!」 「ふ〜ん・・・冷や汗出てるよ♪」 「出てねぇ!」 叫んで返事をしながら、ルークは額の汗を拭う。 何だか嫌な汗だ。 そして、胸を渦巻く気持ちの悪いもの。 なんだってんだよ! 急に落ち着いていられなくなったルークは、どこぞへと駆けていった。 残ったアニス。 表情は、小悪魔の如く性悪な笑顔。 「いけませんね〜アニス」 「はうわ!!た、大佐〜脅かさないで下さいよ〜」 「いや〜驚かすつもりはなかったんですが♪」 何処からともなくアニスの横に現れたジェイド。 いつも通りの涼やかな顔。 「ティアに秘密だと言われていたでしょう〜」 「聞いてたんですか!?・・・いや〜でも面白そうじゃないですか〜♪」 「えぇ。生暖かく見守らせてもらいましょうか」 小さい悪魔と大きい悪魔。 ふたりの悪魔の掌の上で踊らされる、ルークの純情。 「え〜と・・・ティア?」 「ルーク?どうしたの?夕飯ならまだよ」 ルークは一直線にティアの元へ向かった。 悪魔ふたりには分かり切っていた事か。 ティアは今日の夕食を作る準備の真っ最中。 「あのさ・・・ティアは昔付き合っていた奴とかいるの?」 「え!?」 ルークの質問に、無邪気なアニスの笑顔が脳裏に浮かぶ。 「ルーク・・・アニスから何か聞いたの?」 「え?あ・・・いや。ただの俺の興味本位だよ」 ルークはアニスに言われた事を覚えていた。 嘘やごまかしが苦手な彼の言葉を、ティアがどうとるか。 「そう・・・なら、いいけど」 「・・・」 自分のごまかしが上手くいった、とはルークは思えなかった。 ティアが何かに焦っているから、言葉の真偽を確かめることができないのだ。 彼女が焦る理由。 それは、ルークの質問への答えがYESであることを示す。 少なくともルークはそう思った。 「で・・・どうなんだ?」 「あ、あなたには関係ないでしょう」 「いや、そうなんだけどさ・・・」 そう、ティアはルークの彼女であるという訳ではない。 『昔の男を探る義理』は無いのである。 だが、『好きな子の昔の男』が気になるのは自然の摂理。 「なぁ、ティア・・・どんな奴だったんだ?」 「・・・」 ティアは背を向け、何も答えない。 余程言いたくない事なのであろう。 それが余計にルークを不安にさせてしまう。 ルークはティアの気持ちを汲める程、器用ではないのだから。 「ティア!」 痺れを切らしたルークは、ティアに歩み寄り彼女の両肩を掴み、無理矢理こちらを向かせた。 ティアに小さく離してと訴えられたが、ルークには届かなかった。 ルークの目に映ったティアの顔は、今までに見たことのない程に歪んでいた。 顔を赤くして、目は不安というか悲しみの様なものに満ちている。 ルークはティアの肩を掴む力を緩めてしまう。 その隙にティアは彼の手から逃れ、走り去ってしまった。 「・・・」 ひとり佇むルーク。 そして、草むらから光るふたつの双眼。 「大佐〜思いがけず修羅場ですね〜・・・」 「本当ですね〜♪」 「ヤバイですかね?」 「う〜ん。そうですねぇ」 自分が引き起こしたことが、案外大事になってしまったことに多少なりとも罪の意識があるアニス。 生暖かい目で修羅場を見つめていたジェイドは、いたって冷静。 しかし、これは本当に一大事。 「仕方ないですね。どうにかしましょう」 あからさまに沈んだルーク。 ひとり体育座りで俯いている。 「ルーク」 「なんだよ・・・」 「若いのに元気がありませんねぇ」 「俺もう駄目かも・・・」 「重症ですねぇ」 ルークはすでに影が濃くなり、ため息ばかり。 ジェイドはそんな彼を見て、ニッと口の端を上げ眼鏡を光らせる。 「ルーク。女性は自分の年齢を尋ねられるのを嫌いますね?」 「あ?・・・あぁ」 唐突な陰険ロン毛眼鏡からの質問に首を傾げつつルークは答えた。 「今のあなたの悩みは、それの応用で解決できるでしょう」 「・・・は?」 さらに意味がわからない。 一方では。 「あっちゃ〜そりゃルークが悪いよ〜」 こっちもこっちで沈んでいたティアの所へ向かったアニス。 何を落ち込んでいるのか、知っているのに尋ねたアニスは、本当の諸悪の権現は自分である事を隠してルークを責めていた。 「私も、もう少しごまかし方があったと思うけど・・・」 「ティアは悪くないよ〜!乙女の秘密を探ろうとしたルークが悪い!」 一番悪いのはお前だろとつっこんでおく。 「私は・・・」 「ティア・・・」 アニスはまだティアより年下とはいえ、女が悩む事なら理解できる。 「ん〜・・・じゃあ、ティアももう少し素直になることだね」 「素直・・・に・・・」 夕食の支度を放っておいてしまっている事を思い出し、準備をしていた場所に戻ったティア。 「あ・・・」 と、ちょうどその場でルークと再会してしまった。 目が合うが、何も言えないふたり。 しばらくの後、先に口火を切ったのはルークだった。 「あの・・・さっきはごめん!」 「え?」 「その・・・ティアだって聞かれたくないことくらいあるのに・・・俺」 「い、いいえ!そんな事ないわ」 しおらしいルークの態度に、ティアの頭にアニスの言葉が甦る。 『素直になる』 「だってそれは私があなたのことをす・・・」 「・・・す?」 「!?な、なんでもないわ!」 「・・・・・・す?」 スリ、すりゴマ、酢、ストレス。 ティアが勢いついて口走りそうになってしまった言葉の先を必死に探すルーク。 「なぁ「す」って何だよ!」 「だからなんでもないってば!」 しかして、結局はティアの元彼について何も聞けていないのが悔しい。 確かに自分はティアの何でもないが、これだけは譲れない。 「す」も教えてくれないティアへの、ささやかな復讐を決行。 「?ちょっと、ルーク?」 今度こそしっかりとティアの両肩を掴む。 そして、口元を彼女の耳まで近づけて。 息を吹きかけた。 「!!!」 「こんくらいの仕返しはアリだろ」 「ルーク!!」 顔を真っ赤にして叫ぶティアをよそに、ルークはすたこらと逃げてしまった。 「まったく・・・」 そう小さく呟いて、手を胸に置く。 「すき」の気持ちが溢れてく。 今はもうあなたしか見えないから。 と、またしても草むらに光る悪魔の双眼ふたつ。 「大佐〜これハッピーエンドですか?」 「う〜ん。多分そうでしょう」 「チッ。もっと色々期待してたのに〜」 「まぁまぁ。なかなか面白いものが見れましたよ♪」 どこからどこまでも一部始終。 全てをこやつらに見られていたのを、お互いを想っていっぱいいっぱいのふたりに気付くよしは無かった。 END 2006年5月執筆 2008年3月修正 ティアに元彼がいて…というリクエストでした。 耳ふーはゼロしいだろとツッコんでみる!(ロデオライド) アニスと大佐を出すのは楽しいです。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月13日 |