乙女の心々


乙女の心々


「へっ!楽勝だぜ!」
「調子にのらないで」
「う・・・」

戦闘中、何度も何度も繰り返されるこの光景。
以前ほど調子をぶっこくことは無くなったが、敵を倒せば浮かれるルーク。
それに対してすばやく、そして冷たい声で注意をするティア。

「な〜ガイ〜・・・俺って調子にのってるかな〜」
「う〜ん・・・」

いつもの事ながら、落ち込んだルークの相談に苦笑いで乗る、使用人兼心の友ガイ。

「俺・・・ティアに嫌われてんのかな〜・・・」

悩むルーク。
思春期の憂いと悶絶。
実質7歳のルークの恋を優しく見守るガイの姿はまさに父のそれ。




「ティアー!」
「なに?」

ティアのもとへ駆けてくるルーク。
後ろ手に何かを隠しているのが明白。

「これ!」

子供らしい笑顔を見せ、ルークは隠していた物を彼女の目の前へさし出した。
姿を現したのは、花でできた輪。花冠。
少々いびつな形をしている。

「・・・どうしたの?・・・これ」
「ナタリアが作っててさ・・・俺もティアにどうかなって思って作ったんだけど・・・」

ティアはそっと花冠を受け取る。

「・・・ありが・・・とう」

少しだけ俯いてお礼を述べる。
ぼそりと聞こえたそれは、ルークにはあまり嬉しそうには聞き取れなかった。

それが、ルークの想いに影をつくる。
重くのしかかり、苦しくなるのが感じられる。




「ティアー!」
「今度はどうしたの?」

いぶかしむティアへ一直線に向かうルーク。

「剣の稽古、見ててほしいんだけど・・・」
「え?それならガイに頼めばいいじゃない」

尤もな返答をされる。
しかし、ここでめげては恋路は更に険しくなる。

「だ、だって戦闘の後、いつもティア色々言うだろ?」
「えぇ。まぁそうね」
「だからさ、どこが悪いか言ってほしいんだって」
「・・・」

こちらもこちらで尤もらしい返答で返す。
ティアは少し悩む素振りを見せる。
ルークは心の中で祈る。

「ごめんなさい。私忙しいから・・・」
「え〜!?」

と、返され落ち込む。
今のルークにはクリティカルヒットだったか。
幼き純情、抉られる。




「ガイ〜・・・」
「ティアだって用事くらいあるさ」
「でも〜・・・」

完全に相談所と化しているガイの居所。
今は心の友兼カウンセラー。

「俺、マジで嫌われてんのかな〜・・・」

こうなったら悲観まっしぐらなルークには困ったものだとガイは小さくため息をつく。

「ティアにはティアの気持ちがあるってことさ」
「う〜ん・・・」

何度も言うが、ルークは実質7歳。
相手の気持ちも考えて行動をするのは高等テクニックである。

沈み込むルークの姿。
ガイの気持ちが流される。

「そういや飯ができたんだ。それを用事に、もう一度ティアに逢ってこい」
「・・・うん」

ため息をはきながら、ティアを探してしばらく。
どこからか話し声が聞こえた。

耳をすませると、どうやらティアとアニスの声。

う・・・どうしよ・・・

なにやら話しているふたりを見つけ、一旦身を潜めてしまうと、完全に出るタイミングを失った。
仕方なくルークは草むらから様子を窺う。

「へ?」
「あの・・・だからね・・・女らしくなりたいのよ」
「女らしく・・・ねぇ」

・・・女らしく!?

思わずルークも反復してしまう。
ティアがそう言った理由が気になってしまう。

「何て言うか・・・可愛げをつけたいの」

いや、ティアは今のままで十分かわい・・・って俺なに言ってんだよ!!

ひとりで悩み苦しむルーク。

「う〜ん・・・しゃあない!このアニスちゃんがティアの悩みをずばっと解決したげる」
「本当!?」
「うん!でもさ〜それってルークのため?」
「え!?」

驚いた声をあげるティアと共に、ルークもビックリしていた。
何故ここで自分の名前が出てくるのかが全くわからなかった。

「そ、そんなんじゃないわ!」
「ふ〜ん♪」

アニスはティアの心境を理解している様子。
もちろんルークには何もわからない。

「・・・ん?」
「どうしたの?ティア」
「そこ!ノクターナルライト!」
「うおおおお!!」

突然ティアは草むらに向かって3本の短剣を投げつけた。
短剣が行き着いた先は、身を潜め聞き耳をたてていたルークの所。
あまりに突然のことに、ルークはティアの攻撃を避けることができなかった。

「ルーク!?」
「お・・・おう・・・」

ティアとアニスが駆け寄ったそこには、無様に倒れているルーク。
急いでティアが癒しの譜術をかけてくれる。

「め・・・飯ができたから呼びに来たんだ・・・」
「そう、ありがとう」

それでもまだ腰砕けになって座り込んでいるルークをよそに、ティアはすたこらとその場から去ってしまった。
アニスがルークの横に立つ。

「ルーク。聞いてたでしょ」
「・・・あぁ」
「まったくついてないねぇ〜」

アニスはルークを哀れみの目で見下ろしてくる。
ルークは気になったので、先程何故自分の名前が話しに出てきたのかを尋ねた。
しかし、アニスから返った返事はこうだった。

「ん?乙女の秘密に決まってんでしょ☆」
「はぁ?」

そう言って、アニスもその場から立ち去る。

ひとり残ったルーク。
頭の上にはハテナマークが大量発生中。

END

2006年5月執筆
2008年3月修正

恋愛面で大人なティア…というリクエストでした。
…あれ?結局、ティアにかまってほしいルークと、それにどう接したらいいのかわからなくて困るティアという感じに。
大人?アニスの方がよっぽど大人な気もしてきます。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日