「メシュティアリカ・・・」 言葉にして紡いだ彼女の名。 どことなく神秘的な雰囲気を漂わせるその名は、口にすると少し気恥ずかしかった。 それと同じくらい、心は気持ち良かった。 キミノナヲ 戦闘中。 ほんの些細な油断だった。 後ろのティアが前に出てきて、彼女に魔物の攻撃があたりそうになる。 守らなくてはと思う。 「ルーク!!」 よくよく考えれば、彼女の程の人間が避けられない攻撃ではなかった。 しかし、想い人に攻撃の手が伸びるのを、黙って見ていられるほどルークは冷静ではない。 見事に、敵の重い一撃を食らった。 「ルーク、大丈夫?」 「あぁ。もう平気だよ」 「・・・」 寝かされたルークの看病を、ティアは自ら名乗り出た。 自責の念からか、それとも・・・。 「ありがとうな・・・その」 「?」 ルークは素直に礼を述べる。 そのついでに、一度彼女をあの名で呼んでみようと考えた。 だが、妙な気恥ずかしさがそれを押しとどめる。 名を呼ぶだけ。 何も緊張することなどないのは、ルークもよくわかっている。 「い、いや・・・なんでもねぇ」 「変なルーク」 言い返す言葉が無かった。 ティアに届くことが重要だろうか。 しかし、そんな度胸はない。 ルークは今一度、あの名を紡ぐ。 「・・・メシュティアリカ」 「え?」 「!!」 本当に、小さく小さく呟いたつもりだったが、どうやらティアに聞かれてしまったらしい。 ルークには思わぬ誤算。 「ルーク・・・今、私の名前・・・」 「あ、いや・・・なんつーか・・・」 ルークは思わず寝かしていた上半身を起こしてしまう。 すると、ティアの顔が眼前にきて、彼女の顔がほんのりと赤いのが見受けられた。 「・・・どうしたの?急に」 「あ〜・・・なんか・・・呼んでみたくてさ」 下手な嘘すらも思いつかず、だが適当に答えた。 しかし「呼んでみたかった」とは本心だ。 「いい名前だよ、な・・・メシュティアリカ」 「・・・ありが・・・と、う」 はっきりと「メシュティアリカ」と口にする。 気恥ずかしさはどうやらティアも同様であるようで、ふたりして照れてしまう。 ふと。 「でも・・・ホント。いいよな名前って」 「え?」 「俺のは・・本当の俺の名前じゃないしな」 「ルーク・・・」 あまり気付きたくもなく、考えたくもないことだった。 自分は「ルーク・フォン・ファブレ」でなかったのなら、何者でもないのだ。 「ルークはルークよ」 「・・・」 「あなたがそう思えなくても。そうなのよ」 「・・・ありがとう・・・ティア」 妙に照れくさかった。 少しだけ俯いたティアの表情がとても優しくて、余計に気恥ずかしくなる。 でも、嬉しくて。 幸せだった。 心の中で、ティアの言葉を反芻して。 噛み締めて。 実感する。 「名前・・・か。子供とかできたら、なんて名前をつけようかしら・・・」 「え・・・!!」 ティアの唐突な発言は、特に何か意識したものではないというのは容易にわかる。 だが。 わかっていても、反応してしまうのがルークだ。 「ティア!ちょ・・・子供とかって・・・」 「どうしたのよ?・・・ルークはどんな名前が好き?」 「え・・・や・・・」 たまにあるのだ。 妙に炸裂される、ティアの天然。 可愛らしい笑顔のティアにすっかり参ってしまったルークは、先程までの照れも恥ずかしさもなくなり、ただ顔を赤くしていた。 しかし、これはこれで幸せなひと時。 「ティ・・・ティアの好きなので・・・」 「やっぱり可愛い名前がいいわね」 いつか、本当に名前を決める時を夢見て。 END 2006年5月執筆 2008年3月修正 メシュティアリカって素敵ですよね! 私は長い名前を短縮させた愛称で呼ぶというのが大好きなんです。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月13日 |