自分では好きなんだよなって自覚してはいた。 でも、それを口にするのはどうにも駄目で。 恥ずかしいっつーのとか、怖いのとか ともかく、この気持ちを伝えることは無いだろうって思ってた。 mistake rondo〜Lside〜 「んも〜ルークってホント駄目〜」 「駄目ってなんだよ!」 「じゃあへたれ」 「あのな!」 日も暮れ始めた頃、宿屋の一室で大騒ぎを始めたのはルーク。 彼に話す・・・と言うよりも、一方的に追い詰めているのはアニス。 「ったく、好きなら好きって言えばいいの〜」 「・・・」 ルークは口ごもる。 ルークの想い人など、皆お見通しであるわけで。 しかし、彼が極度の鈍感であることも知っている。 皆はあたたかい目で彼を見守っているが、アニスは違う。 いつまでたってもじれったいルークに業を煮やし尽くしていた。 何かたきつけるきっかけでもつくってやろうと、今日はルークを追い詰めてみているのだ。 「ハッキリしない男は好かれないよ〜」 「だーもーうっせぇ〜!」 しかし先程から延々とこんな感じで、核心に迫るといった事にはならない。 「ん〜も〜ティアの事、好きなんでしょ!?」 「ば!ばっか!!そんな・・・」 「じゃあキライ?」 アニスに睨みつけられ、ルークは半ばヤケクソ状態に陥った。 「・・・あぁ・・・好きだ!」 と、大声で叫んでしまった。 お、とアニスが目を見開いた瞬間、部屋のドアの付近で物音がした。 ルークとアニスがドアを見ると、半開きになったそこに、ティアが呆然と立っていた。 ティアは目に見えて血相を変え、すぐにその場から走り去ってしまった。 ルークはわけがわからないという風であったが、アニスは一瞬で全てを把握した。 ティアは勘違いをした、と。 「ルーク!ティア、今の絶対勘違いした!」 「は?勘違いって・・・」 「ほれ!ともかく早くティアを追うの!」 アニスは思いっきりルークの背中を叩く。 やはりルークは状況が飲み込めていない様だったが致し方ない。 ルークは渋々宿屋を出た。 「これで一歩進展してくんないかな〜」 ひとり残ったアニスはぼやく。 ティアは宿屋から出てすぐの場所にいた。 東の空は夜の暗さを抱え、西の空は赤い夕暮れ。 黒白の時間。 宿から出てあっさりとティアを見つけたルークは、なんと声をかけたら良いか戸惑っていた。 アニスが言った"勘違い"って・・・? ともかく、今はこの状況の打開が必要と考えた。 「あの・・・ティア?」 ティアは振り向きもしなかった。 ますますルークにはわけがわからない。 人に鈍いと指摘されても仕方ないとは自分でも思う。 だが、どうしようもないのだ。 混乱する頭を整理して考える。 俺はアニスと言い争っていた 勢いで「好きだ」と叫んだ そこで・・・ "勘違い" 『俺がアニスに向かって「好きだ」と言ったと誤解した』? 自分の考えがそう行きついた事にルークは驚いた。 もし本当にそうなら・・・ "もしも"を考える自分を卑しく思い、ルークは首を振る。 しかし、なんにしてもティアは自分の事でこんな風になったという事に、罪悪感と嬉しさを抱く。 「ティア・・・さっきの聞いてたのか?」 「・・・えぇ」 少し遅れてではあったが、ティアから返事がきた。 「・・・どこから聞いてた?」 「あなたが・・・アニスに「好きだ」と言うところだけよ」 それならば"勘違い"もつじつまが合う。 だが、そう考えるのは自意識過剰と言うやつではないか? ルークはひたすら悩む。 「・・・私」 ティアが小さく呟くのが聞こえる。 ちらりと見えた彼女の横顔はどこか悲しい色で。 自分のせいでティアを悲しませているという事実が、ルークにはひどく重かった。 意を決せねば、と力を入れる。 「ティア!・・・お前がさっきの事・・・どうとったかはわかんねぇけど・・・その・・・」 ティアは何も言わない。 「俺が本当に――――――」 ザアァと一陣の風が吹く。 大きく周囲の木々がざわめく。 ルークが精一杯、気持ちを振り絞って発した言葉はナイスタイミングでかき消された。 ルークは呆然とした。 今の・・・ティア・・・ちゃんと聞こえたかな・・・? ティアはそっと振り返る。 顔はふせた状態で、表情は窺えない。 「ティ・・・ティア?」 ルークの目の前に来て、やっとティアは顔を上げる。 目に映るその顔は、まるで何もなかったかのように平然としたもの。 「風が冷たくなってきたわ。宿に戻りましょう」 「あ・・・あぁ・・・」 とんだ拍子抜けというやつだ。 ルークにはなにがなんだかさっぱりだった。 「ほら、早く行きましょう」 そう言って、ティアはさり気なくルークの手をとった。 ルークは最初は戸惑ったが、そっとティアの手を握ってみた。 ルークはティアより一歩前を歩く。 まだ状況を把握しきれていないため、後ろでティアが顔を真っ赤にしていたことには、まったく気が付かなかった。 END 2006年4月執筆 2008年3月執筆 キリ番リクエストで…正確にはルークが独り言で「好きだ」と言ったのをティアが勘違いして…というリクエストだったのですが。 …あれ?なんか違う気もしますが…まあ御愛嬌ということで…脱兎!! では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月13日 |