mistake rondo〜Tside〜


まるで陽だまりのようで。
想えば想うほどに暖かくて。
でも、同じくらいつらくて。

それは私だけ?









mistake rondo〜Tside〜









ひしめく喧騒。
それはひとつのメロディを生む。
決して心地の良いものではないが。

「ふぅ・・・」

本日の買出し当番であるティアは、買った食材等の入った袋を両手で抱えながら宿への道を歩く。
ゆっくりと、日が暮れ始めていた。
完璧に夜が来る前に宿へ戻ろうと、ティアは歩を速めた。


宿に戻ったところで、ある一室から言い争う声が聞こえることに気付く。
やたら大きな声だが、正確に何と言っているかはわからない。

この声は・・・

声の主は、ルークとアニスではないかと見当をつける。
何を大声で話しているのか気になったのと、あまりうるさいと宿にいる他の人に迷惑だと叱ってやろうと思い、ティアは声のする部屋の前へ行く。

中に入ろうと、荷物を片手で持ちノブに手をかけ、少しドアを開けたところで、一際大きなルークの声が耳に入った。

「好きだ!」

目に入った光景は、ルークとアニスが向かい合っている様。

動揺した。
何に動揺しているのかは理解しかねた。

ティアは思わず抱えていた荷物を床に落としてしまった。
気付いたときには走り出していた。

ルークが・・・アニスに・・・?

一瞬で頭はぐちゃぐちゃになってしまった。

宿の外に飛び出すと、すでに東の空の色は夜になっていた。
西の空は美しい赤で、まるで彼を思わせるような・・・。

ティアはハッとして首を振る。
こんなにも胸が苦しいなんて。

今まで異性を好きになったことがなかったわけではない。
なのに、どうしてルークを想うとこんなにもつらいのか。

背後で足音がし、ルークが自分の名を呼ぶ声がする。
しかし、振り向かない。
振り向けない。
下唇をギュッと噛み締める。

「ティア・・・さっきの聞いてたのか?」
「・・・えぇ」

振り絞ってやっと出た声は、きっとひどく擦れていただろう。

ルークにどこから聴いていたのかと問われ、口に出すのは躊躇ったが、答えた。
顔は見えないが、何と無くルークの空気が変わった気がした。
だが、そんなものは気のせいであろう。

「・・・私・・・」

結局は私の独りよがり。

「ティア!お前がさっきのこと・・・どうとったかはわかんねぇけど・・・その・・・」

明らかに彼の言葉には続きがあった。
ティアは黙ってそれを待った。

「俺が本当に―――――――」

ザアアアァァと風が木を揺する。
と、ルークが一息飲んでから発した言葉は、ぴったりなタイミングで風の音にかき消された。

しかし。

今・・・のは・・・

ティアにはハッキリと聞こえた。

ティアは俯いたまま振り返り、ルークの目の前へ行く。
彼に名を呼ばれ、顔を上げる。
なるべく普段通りを装って。

「風が冷たくなってきたわ。宿に戻りましょう」
「あ・・・あぁ・・・」

声が震えてはいまいかと心配した。
目の前の彼はわけがわからないという風で。

「ほら、早く行きましょう」

ティアはさり気なくルークの手をとった。
ルークはそれを握り返してくれ、一歩先を行き引っ張ってくれた。

ティアは下を向いて、彼が振り返っても顔を見られないようにする。
きっと真っ赤だろうから。

さっきまであんなに苦しかったのに。
人を想うこととはこうゆうものなのか、とひとつ学んだ。

END

2006年4月執筆
2008年3月修正

二人の想いを書くには、二つのお話を書かなければまとまりませんでした。
いや、二つ書いてもまもまっているのかは不明です。
ルークの言葉は想像か妄想で補って下さい(笑
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日