awkward kiss いくら名前を呼んでも返事がないから不可抗力だ仕方ない、そう思いながら戸を開いた。 宿屋の一室。 ティアがいる部屋の戸を。 「ティア?」 部屋の中へ足を踏み入れながら、ルークはもう一度彼女の名を呼んだ。 しかし、先程までと同じく反応は無い。 もう夕飯の時間だってのに・・・ ルークの目的は、晩御飯の時間になっても部屋から出てこないティアを呼んで来ること。 そう広くはない部屋を見回す。 すると、窓際のベッドに横たわるティアを見つけた。 もしや体調が悪いのでは、と不安になる。 しかし、近づいてみるとその不安は取り越し苦労だったと知る。 ただ、ティアは眠っていた。 掛け布団なども一切せず。 とても幸せそうに寝息を立てながら。 ・・・・・・・ 眠る彼女を見下ろしながら、ルークは立ちすくんでしまう。 改めてティアを見てみると、なんて細い体なのだろうと感じる。 いくら共に闘っているとはいえ。 いくら強がっているとはいえ。 彼女はまだ、16歳の少女なのだ。 いつもつけている手袋をはずしてあるティアの腕。 露出されたその腕は白く、そして細い。 そして眠る彼女の顔。 人の寝顔を見るのは失礼なこととは思いつつ、過去自分は彼女に寝顔を見られたのだと思い出し、お互い様だとかまやしなかった。 瞳を閉じ、整った顔つきで眠るティア。 整っていると言っても、やはりまだあどけなさが残る。 ルークは、そんな彼女をとても愛しく思った。 自然と顔がほころんでしまう。 「・・・・・・」 眠るティアの唇がかすかに動き、か細く言葉を紡いだ。 なんと言ったのかはわからない。 「ルー・・・ク・・・」 「!?」 ばっと思わず身構えてしまう。 今度はハッキリと聞き取れた。 ティアは確かに自分の名を呼んだ。 もうそれだけで嬉しくて。 いつの間にか意識の外で体は動いていた。 そっと彼女を起こさないように互いの距離を縮める。 ゆっくりと顔を近づけていく。 そして、互いの顔の距離はあと数センチ。 そこまできて、ルークはハッとする。 俺・・・今・・・ 自分がしようとしていたことに驚愕する。 簡単なことだ。 要するに、ルークはティアの寝込みを襲おうとしたのだ。 急に羞恥心がこみ上げてきて、ティアから離れようとする。 「ん・・・」 すると、ゆっくりとティアがまぶたを開き目を覚ました。 「どわぁ!」 「ルーク!?」 突然のことにルークはまぬけな声を上げひっくり返った。 「ちょっとルーク大丈夫?」 ティアは上半身を起こしながら問う。 「あぁ・・・なんとか」 服をはたきながらルークは立ち上がる。 「私・・・眠ってしまっていたのね」 「あ、あぁ。もうメシの時間だから呼びにきた」 「そう、ありがとう・・・」 礼を述べたところでティアの顔色が変わる。 「ルーク・・・もしかして私の寝顔見た!?」 「なっ!べ、別に見てねぇよ!」 「怪しいわ・・・」 怪訝そうな顔をするティアに動揺を隠せないルーク。 下手なことを言えば、自分がしようとしたことがばれてしまう。 それだけは何があっても勘弁である。 「人の寝顔を見るなんて最低よ」 「だから見てねーっつーの!それにお前だって前俺の寝顔見てただろ!?」 「そうだったかしら?」 記憶にございませんと飄々な態度で言うティアに反抗心を覚える。 「だいたい誰がお前なんかの寝顔見るかっつーの」 「悪かったわね」 またやっちまった・・・ 後悔しても時既に遅く、ティアはご立腹の様子。 本当はこんなことが言いたいんじゃないのに 伝えたい想いだってあるのに ・・・俺ってホントへたれだな・・・ ルークはいつまでたっても臆病でへたれな自分にため息ひとつ。 「なにため息なんてついてるの?」 「いや・・・」 「・・・・・・どうせ・・・私なんか・・・」 ティアは小さな声でそう言って暗い顔を見せる。 彼女を悲しませた。 その事実にルークは焦った。 焦った勢いで想いのたけをぶちまけそうになる。 でもやっぱり怖くて。 言葉がでなくて。 体が動いた。 すばやくティアの両肩をつかむ。 「ルーク!?」 そして、ほんの一瞬。 まばたきをするくらいの空隙。 ルークの唇が、ティアのそれに触れた。 ルークはすぐに手をはなし、そして踵を返すなりすぐさま部屋から逃走した。 ぽつんとひとり残されたティア。 今の一瞬の出来事のおかげで頭がすっかり混乱していた。 唐突にふりおろされた不器用なキス。 それの意味するところを必死に探していた。 しばらく考えたが、とうとう答えはわからなくて。 ただわかっていたのは、どんな顔してルークに会えば良いのかわからないということだけ。 真っ赤な顔の両頬に触れ一言。 「ばか・・・」 END 2006年2月執筆 2008年3月修正 この頃、仲良くさせてもらっていた方へプレゼントした作品。 ルークを攻めにしようとして攻めきれなかった感じが丸出し。 で、でも、ルークってそんな感じですよね!結局へたれ(笑 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月12日 |