記念日物語smile rainbow


彼女と恋人という関係になって。
彼女に名前で呼ばれるようになって。

色んな幸せを手に入れて。

でも、時々感じる彼女の孤独や悲しみ。
そんな顔は見たくないから。

さぁ、何でもない日を記念日にしよう。









記念日物語smile rainbow









ここ数日続いていた鬱陶しい雨が止んだ午後。
気持ちが良すぎるくらいの快晴。

「セネル、どこに行くんだ?」
「いいからいいから」

セネルはクロエの細腕を引きながら、ぐいぐいと進む。
向かう先は泉。
唐突に外へ行こうと言って連れ出されたクロエは、わけのわからないまま腕を引かれて歩く。
一歩先を行くためよく見えないが、どこかセネルの表情は楽しげである。
なんとなくクロエも微笑む。
泉に着くと、今朝方までの雨のおかげで草や花が露に濡れてキラキラと光っている。
ただ座るには適さない。

「だめか・・・」
「セネル?」
「いや・・・」

何かを見て少し残念そうにするセネル。
問いかけてもはぐらかされ、ますますクロエには彼の意図がわからない。

「〜〜〜〜っ・・・次だ!」
「ちょ!セネル!?」

再びクロエを引っ張ってどこかへ向かいだす。

今日の彼はなんだか変で、面白い。
クロエは、セネルが何をしたいのかはわからないが付き合ってやろうと決めた。

「え〜と・・・今度は・・・」
「まったく、何をしたいんだお前は」

手を繋いだまま、街の中で行き詰まり。

「じゃあ・・・」

当てがあるのかないのか、今度は泉とは逆の街の外へと出る。
ゆっくりと行き、少しだけ魔物と戦ったりしながら楽々と進む。
ふたりのコンビネーションは健在で、どうやら衰えを知らない。
顔を向き合わせ、少しだけ照れくさそうに笑う。
たどり着いたのは小高い丘。
街からすぐの場所だ。

大きな空にほんの少しだけ近づくその場所は、街や海をよく眺めることが可能で素晴らしい所である。
しかし。

「まただめか・・・」
「?」

美しい所のはずなのに、セネルは深くため息をつく。

「だいたいもう時間が・・・」
「何をブツブツ言っている」

やたら落ち込んでいるセネルに、クロエは面白そうに声をかける。
彼は真剣に何かを探しているようだが、そんな珍しいセネルの姿にクロエは楽しくて仕方ない。

「お前が何をしたいのかはわからないが、私はちゃんと付き合うぞ」
「クロエ・・・」

その言葉でセネルが再びやる気を出したそのときだった。

「ん?」

ぽつぽつと音を立て、雨が降り始めた。

「うわっ・・・早く戻ろうクロエ」
「あぁ」

次第に強さを増す雨に打たれながら、ふたりはまた手を繋いで街まで走って帰った。
先程までの快晴が嘘のように、突然降り出した雨。
空の半分ほどは明るいのにも関わらず、街の上空のみひどく暗い。
ふたりはセネルの家へ逃げ込んだ。

「ふぅ・・・すっかり濡れてしまったな」
「くっそぉ〜・・・」

妙に悔しそうにするセネル。

「セネル、今日は本当にどうしたんだ?なんか変だぞ」
「・・・虹を・・・」
「にじ?」

その瞬間、バアアンという大きな音と共にひとりの人間が家に突入してきた。

「セッネセネ〜。クー♪」
「ノーマ」
「外、すっごいよ!」

ふたりは顔を見合わせ、ノーマに連れられ外へ出る。
これまた嘘のように空は見事に晴れ渡っていた。
あの雨はほとんど一瞬のものであった。

明けた空は、ちょうど夕暮れと重なり美しい赤をつくっている。

「あれあれ!」
「あ・・・」

そして。

「虹だ」

遠方で鮮やかに輝く七色の光。
雨上がりにやってくる小さな奇跡。

「・・・やっと見れた」
「え?」
「今日は、クロエに虹を見せたかったんだ」
「・・・何故だ?」

散々連れまわされた理由を唐突に知り、目をぱちくりさせてしまうクロエ。
少し照れながらセネルは続ける。

「・・・クロエ、まだたまに寂しそうな顔するからさ、なにか、楽しい想い出つくって、なんでもいいから記念日にして・・・笑って欲しかったから」

セネルは顔を赤くして、俯いてしまう。
しかし、赤面しているのはクロエも同じ。

「で、でもダメだな俺。いつ頃虹が出るとか全然わかってなかったし・・・」
「ううん・・・」

クロエはそっとセネルの手を握る。

「最高の記念日だ」

幸せそうな笑顔で。
微笑みあって、少し抱き合って、そっと口付けして。
何でもない日。
ちょっと幸せで、大切なふたりの記念日。


虹を教えてくれたノーマがいつの間にかいなくなっていた事に、ふたりは気がつかなかった。
だが、実を言うと隠れて一部始終を見ていたノーマ。

その後数週間、このネタでからかわれたとか・・・。

END

2006年10月執筆
2008年3月修正

何でもないお話。
BUMP OF CHICKENのある歌をモチーフにさせて頂いているのですが…。
セネル君はどんどんキャラがよくわからなくなってきたような…。
でも、なんにでも一生懸命なところはお兄ちゃんですよね!
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月9日