この気持ち


どんなに感情を取り戻しても
結局は今更で
私の時間は戻ってこない
それが自然の摂理なのだから

でも
かすかに“何か”を感じる









この気持ち









「プレセア、何作ろう?」
「ロイドさんにおまかせします」
「う〜ん・・・じゃあ・・・」

本日の野営場で、夕食の支度に取り組むはロイドとプレセア。
それなりの所帯であるパーティであるがため、食事の支度は当番制だ。

「よし、じゃあマーボーカレーはどうだ?」
「わかりました」

ロイドは意気揚々と仕事に取り掛かる。
相変わらずプレセアは淡々と。

アリシア・・・

料理を作る度に思い出してしまうのは妹のこと。
アリシアは料理が上手だった。
姉のプレセアよりも。
家族を想い、作ってくれているのだと感じることができる。
不思議で、そして美味しい料理だった。

『お姉ちゃん』

笑顔だった。

「プレセア?」
「あ・・・すいません・・・」

知らず呆けていたプレセアは、ロイドに名を呼ばれハッとした。

「どうかしたのか?」
「いえ・・・問題ありません」
「・・・」

ロイドはそれ以上追及することもなかった。
それが彼のささやかな優しさであることを、プレセアは知っていた。
だからこそ、少しだけ感情が揺らぐ。


「プレセアってさ、料理上手いよな」
「そう・・・ですか?」
「あぁ!」

ロイドがカレーを、プレセアがマーボーをそれぞれ担当しながら煮ている最中、ロイドが唐突に切り出してきた。

「でも・・・妹の方が上手だったんですよ」
「え、そうなのか?」
「はい・・・小さい頃は、私は料理が下手で、いつも妹が作っていました」
「へ〜・・・」

どんどんとアリシアのことばかり頭に浮かんでくる自分は、まだまだ弱いのだと自覚する。
昔は、もう少し強く生きていたはずなのに。
いつから脆くなったのだろうか。

「へへ!」
「・・・?」
「いや・・・ちょっと、嬉しかったんだ」
「何故・・・ですか?」

微笑むロイドに問う。
彼の心は剥き出しである分、読みづらい。

「プレセアの意外な一面が見れた・・・っつーかさ」
「・・・」

それこそ心の底からの笑顔で言う。
プレセアには全く理解できないが、何となく照れた。

その時、不意に心に隙が生まれた。
火にかけられ熱を持った鍋の縁を、手袋をとった素の手で触れてしまった。

「ッ!!」
「プレセア!?」
「大丈夫です」
「でも・・・」

ほんの少し火傷しただけだと、プレセアはたいしたこととは認識しなかったが、ロイドにとっては違った。
火傷した本人よりも慌てふためいている。
ロイドはさっとプレセアの手をとり、火傷した箇所を見る。

暖かい

「先生かゼロスを呼んで・・・」
「いえ・・・」
「え、でも」
「少し・・・このまま・・・」

プレセアは、ロイドに握られた手から感じる暖かさに身を寄せる。
目を閉じて、意識を集中させる。
少し指先が熱を持って痛いが、別の“熱”を感じることもできた。
まるでお湯に浸かっている気分。

「?」

ロイドはわけがわからないといった風だが、決して拒絶したりはしない。
ただじっとしている。
寧ろまだ彼女の火傷を心配している。

「プレセア・・・?」
「あ・・・す、すいません」

プレセアはパッと手を離す。
恥ずかしさと照れとその他諸々、色々な感情が混ざって顔は些か赤みを帯びている。

「・・・」

ロイドは俯いてしまったプレセアに何を感じ、思ったのかは定かではないが、彼はそっとプレセアの頭に掌を置き、ぽんぽんと優しく撫でた。
それが彼女の感情を色んな意味で逆立てた。

「あの・・・子供扱い・・・しないで下さい」
「え、あ、ごめん!」

感情を垣間見せることの少ないプレセアの精一杯の拒絶という想い。
それは決して冷たいものではなく、寧ろ暖かいものである。

「へへっ!」
「・・・?」

ロイドの嬉しそうな笑顔に、プレセアの胸の中は更にわからないことが増加。
ただでさえ、ずっと胸にある感情の正体や行き着く先もわからないというのに。

「早くメシ作っちまおうぜ」
「・・・はい」

まだ、握られた手が熱を持っている。
ふと、隣の彼の顔を盗み見る。


私も
誰かを想い
料理を作ることができるだろうか

END

2006年7月執筆
2008年3月修正

ロイプレでリクエストを頂いて書いたのですが…。
な、なかなか難しいものでした…ロイドくんが書きづらかったり。
自分ではゼロしいしか書かないものですから、リクエストで新鮮なカプを書くのも楽しかったです。
では、読んでくださった方、ありがとうございました!
2008年3月11日