雷と声と手


雷と声と手


ピカッと閃光がほとばしる。
室内であるのにも関わらず、雷が発生する場所。

雷の神殿。

ロイド達は、雷の精霊ヴォルトとの契約を行うため、この地を訪れた。
皆、先を急ごうと早足に進む。

しかし、しいなは違った。
皆の数歩後ろを歩いている。



雷の光が輝く度、しいなは瞼を強くつむる。
だが、瞼の暗闇の先からはたくさんの声がする。

もぅ・・・やめて・・・。


嘆く声。
叫ぶ声。
罵る声。
泣く声。


しだいに消える声。


「しいな?」
「な・・・なんだい!」

しいなを呼んだのは、背が高く、印象的な紅い長髪を携えた(アホ)神子。
ゼロス。

「何だじゃねぇっつーの。さっきから散々呼んでんのに気付きゃしねぇ」
「あ・・・ごめん・・・」
「らしくねぇなぁおい。そんなんじゃ〜せっかくの胸が台無しだぜ〜」
「なんでそうなるんだい!」
「お〜こわっ」
「まったく・・・」


「皆、此処は暗いし足場が悪いから気を付けろよ〜!」

前方からロイドの声が届く。

ロイドの言ったとおり、暗く足場の悪い場所に出た。
この暗闇での唯一の頼りは、時折光る雷に閃光のみ。
一歩間違えてしまえば、奈落の底のような闇に飲み込まれる。


しいなの体が震える。
左手で、強く右腕をつかむ。
震えは止まらない。

「おいおいしいな〜大丈夫か〜?」
「な・・・何がだい?」

隣から再び声をかけてきたゼロス。
ちゃかすような、そうでないような声で話してくる。

「怖いのか?」
「!?」

普段とはあきらかに違う低い声で言われる。


その瞬間、一際大きな雷が光る。

しいなは目をつむる。


嘆く声。
叫ぶ声。
罵る声。
泣く声。


しだいに消える声。


『お前のせいだ!!』


いやぁぁぁ!!


「しいな!?」

しいなは目を閉じたまま、耳を塞ぎ、よろめいた。
そして、ガクッと足を踏み外す。

「きゃあ!」

闇へと落ちる。

「しいな!!クソッ!」

仲間の誰よりも早く、ゼロスは行動した。
しいなを追いかけ、ゼロスのまた、闇へと落ちた。

ゼロスとしいなを呼ぶ仲間の声が遠ざかる。


「う・・・」

しいなは顔をゆがめる。
落下中に、体のいたるところを打ったようだ。
足を踏み外し、闇に落ちたしいなは、筒のような物を通り神殿の入り口近くに運ばれてしまった。

馬鹿だ・・・あたし・・・こんなんじゃ・・・

「どわああ〜〜〜!!!」

でかい叫び声が、しいな同様に落ちてくる。

ドシン!

「あいて〜・・・」
「ゼロス!?」
「よっアホしいな」
「なっ・・・あんた・・・なんで」
「なんだって、別にいいだろ」

有無を言わせぬ口調でゼロスが言う。

「お前に聞きたいことがある」
「え?」

真剣そのもののゼロスの声。
目がそらせない。

「怖いか?」
「!・・・」

神子であるゼロスが、過去ミズホの民に起こった大事件を知らないはずが無かった。
何より、自分と似た境遇を背負ってしまった者がいることが、ゼロスの胸に事件のことを焼き付けた。

人を不幸にしてしまった者。

「こ・・・怖くなんか・・・」
「震えてるだろ?」
「震えてなんか・・・」
「お馬鹿なロイドならまだしも、俺の目はごまかせないぜ」
「・・・・・・・」

沈黙。

すると、ゼロスがしいなの右手をとる。

「痛っ」

触れられるまで気付かなかったが、怪我をしていた。
血が滲み出ている。
ふわっと暖かい魔法の光で、あっという間に傷が塞がる。

「お前、馬鹿だよな」
「なっ!あんたには言われたくないね」
「あぁ、俺も馬鹿さ」
「え?」

傷が癒えても、ゼロスはしいなの手を放さない。

俺は馬鹿だ
そして弱い
他人にかけてやる優しい言葉なんか知らない

それでも、と思う
この心は強いだろうか?

「・・・・怖いよ・・・」

ゆっくりとしいなが口を開いた。

「ホントは・・・泣きたいぐらいサ・・・」

その声は、震えている。

「でも・・・あたしがやらなきゃ・・・」

だんだんと声が小さくなる。

「だからお前は馬鹿だっつーんだよ」

「ひとりで全部抱え込みやがってよ」(他人のことなんか言えるのか?)
「それで泣きそうになってるなんて馬鹿だろ」(馬鹿は自分だろ?)

心の中で、いつまでも嘆く自分の声。
でも、それを振り切って。

「ロイドじゃねぇけどよ・・・お前はひとりじゃねぇだろ?」

しいなの瞳から涙が溢れる。
今まで必死におしとどめていた大量の雫。

「う・・・っう・・・・うわあああ!!」

子供のように泣きじゃくるしいな。
ゼロスは、あいている左手でしいなの頭を優しく撫でる。

ひとりで大丈夫だって思ってた
あたしがやらなきゃって思ってた
泣いたら駄目だって思ってた

・・・・・ゼロスの一言で、全部変わった

皆がいるから大丈夫
あたしにしかできないから
泣いたっていいんだ

それに、本当はあたし知ってた
神殿に入ってからずっと、ゼロスがあたしの傍にいてくれたのを
不安を無くさせようと、話しかけてくれたのを


ずっとつながれている右手が、とても暖かい。


しばらくして、ロイド達がふたりのもとへやって来た。
泣きはらしたしいなの瞳は赤くなっていたため、何をしたんだと、ゼロスが問い詰められたのは言うまでもない。

END

2005年12月執筆
2008年3月修正

友人からのリクエストだった作品。
これは昔の私の作品の中でも割とお気に入りなんです。いや、でも文章の拙さは相変わらずなんですがね…。
ゼロスもしいなもとても大きくて辛いものを背負っているからこそ、二人で乗り越えていって欲しいと思うんです。
ゼロしい大好きなんです…ッ!
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月8日