20 居眠り-桜の日-


20 居眠り
桜の日-カイアティver-


「パーティーなのですよー!」

マルルゥがそこら中を飛び回りながら叫んでいるのが聞こえ、アティは船の外へ出た。
すると、待ちかねたようにマルルゥがアティの目の前まで突進してきた。

「どうしたんですか?マルルゥ」
「今日はパーティーなのですよ!」

詳しく聞いてみると、なにやら風雷の郷でお祝い事があるらしく、宴会を開催するとのこと。

「先生さん達も来るですよ」
「えぇ。皆には私から伝えておきますね」





「わぁ!綺麗な花!」

早速、風雷の郷へと向かった一向を待ち構えていたのは、郷中を彩る桃色の花であった。
緩やかな風に枝を揺らし、かすかな甘い香りとその花弁を散らす木。
それは、見る者を圧倒し、そして魅了する力を持っていた。

「これは桜という木なんですよ」

と、いつの間に現れたのか、キュウマが教えてくれる。

「サクラ…」
「この季節しか咲かない花なんです」

そして、サクラが咲いたら、花見をしながら宴会をするのが常なのだという。

「おーい!とっとと酒飲むぞー!」

酒が飲めることですっかり上機嫌のカイルは、サクラの美しさを楽しむでもなく、宴会を始めていた。





宴もたけなわを過ぎた頃、アティは一人、一番大きなサクラの木の下にやって来た。
月の光の下で妖艶にも見える美しさを放つサクラを、心ゆくまで楽しみたかった。

楽しめる時に楽しんでおかないと、損ですもんね

明日にだって、辛い戦いが待っているかもしれない。
今日という一瞬を、純粋に楽しまなくては、明日は頑張れない。
そう思うと、少しだけ涙が出そうになった。

「アティー…」
「カ、カイルさん…?」

急に背後から名前を呼ばれて振り返ると、覚束ない足取りでこちらに向かってくるカイルがいた。
その様子を見るに、相当飲んだことがわかる。
アティの隣まで来て、カイルはサクラをじっと眺め始める。

「サクラ、綺麗ですよね」
「……お前の方が…綺麗…だ」
「え?…て、きゃッ!!」

突然の言葉に驚く暇もなかった。
アティはカイルに押し倒された。

「カ、カ、カイルさん!?」
「……ぐー…」
「…………寝て…る」

すでにカイルは夢の世界へと旅立っていた。
恥ずかしいやら、楽しいやら、面白いやら。
アティは何が何だかわからなくて、ただ微笑むことしかできなかった。

今日という一瞬があるから、私は明日も頑張れる
…あなたがいるから、私は明日も頑張れる

眠るカイルの頭をそっと撫で、明日への勇気を胸に詰め込む。



しばらくして、カイルに押し倒された状態のアティを発見したソノラにより、カイルは長々と説教を受けることとなる。
アティはあえてフォローをするつもりはなかった。
あの言葉の真意を尋ねたかったが、それもやめておいた。
真意はどうであれ、純粋に嬉しかった言葉は、それだけで勇気になるのだから。

END

カイルはきっと酔いつぶれるまで飲むでしょうね。
スカーレルは絶対酔いつぶれるとかなさそう(笑