晴れた日は、空の下で風と踊ろう。 草花の奏でる音色は子守唄。 ふたりはよりそい夢を見る。 それはきっと・・・。 ある晴れた昼下がり ある晴れた昼下がり。 陽が傾き始め、ただ暖かい光が降りそそぐ。 街から少し離れた場所で、セネルとクロエのふたりは訓練をしていた。 魔物の強暴化はおさまったものの、訓練を怠るわけにはいかない。 昼食には、無理やりハリエットに特製サンドイッチ(本人曰く)を持たされそうになったが、何とか振り切りシャーリィが作ってくれたヘルシーバーガーを食した。 ふたりは昼食後、大きな木の下で休んでいた。 生い茂る葉が、心地よい影をつくっている。 セネルとクロエは、よりそうように木にもたれかかっている。 こんなに心地よくては眠ってしまう クロエの意識が、睡魔に侵される。 暖かな日差し。 緩やかな時間。 隣の存在。 ここまで揃っていたら眠くもなる。 セネルに寝顔を見られてしまうだろうかと不安に思ったが、クロエは目を閉じた。 夢へとおちていくクロエの横で、既にセネルは浅い眠りにつき、夢を見ていた。 しばらく後、首が傾いた瞬間にハッと目を覚ます。 そのため、夢の内容がすっかり頭から消えうせた。 夢なんてそんな程度だろう でも、幸せな夢だったような・・・ そんな気がする 隣のクロエはどうしているかと思い、名を呼ぶが返事は無い。 「クロエ?」 横からクロエの顔を覗き込む。 小さな寝息をたて、クロエは眠っていた。 穏やかな顔をしている。 刹那、危ういものを感じる。 それでも、セネルはクロエの顔を真正面から見、その顔の頬にそっと手をあてる。 そして、少しづつ自分の顔を近づける。 ・・・・・・・ やっぱ 寝込みは卑怯だよな 思いとどまり、顔も手も引っ込めようとした瞬間、ゆっくりとではあるが、クロエが目を開けた。 そして、まだ頬に触れているセネルの手や、自分の顔からさほど離れていないセネルの顔を見やり・・・ 「きゃああ!!」 と、叫びながら後退する。(と言っても、もともと背を木に預けてあるため退がれない) 「うわっ!ビックリさせるなよ」 「そ、それはこっちのセリフだ!」 クロエは何が起きたのかさっぱりで混乱。 ただ、セネルから距離を取りたくて、立ち上がって小走りに去ろうとした。 「クロエ!」 しかし、セネルはそれを許しはしない。 すばやく立ち上がったセネルは、どこかに行こうとするクロエの腕を掴み、止めた。 「放せ!クーリッジ!」 多分、今の自分の顔は真っ赤だろう だって、あんな近くにクーリッジの顔があった クロエは何としても羞恥に満ちた自分の顔を見られまいと、セネルの手を振りほどこうとした。 「誰が放すかよ!」 セネルはそう強く言い放って、クロエの両肩をつかみ自分の方へ向かせた。 そして、強く抱きしめた。 「なっ!!」 クロエは更に混乱状態に陥った。 きっと、顔の赤さは最大になっている。 「クーリッジ!な、何をするんだ!」 クロエは、セネルの腕の中で必死にもがく。 しかし、所詮は男の力にかなうはずないわけで。 ふっと少し抱かれる力が緩んだかと思うと、顔に影が重なる。 気付いた時には、セネルの顔が信じられない程近くにあって・・・ 唇に何かが触れていて… ん!? 声が声にならなかった。 そして気付く。 キスされていると。 そっと名残惜しそうに唇を放すセネル。 口が解放された瞬間に、クロエは力なくセネルを突き飛ばし背を向けた。 顔が熱い。 それは、セネルもクロエも同じだった。 「クロエ・・・」 「・・・・・」 クロエから返事はこない。 当然だ。 何てことしてしまったのだと、今更ながら後悔がよぎる。 でも、伝えたいんだ 「クロエ」 返事がこないのは承知のうえで、名を呼ぶ。 そして、クロエを後ろから抱きしめる。 「ちょっ!クーリッジ!」 「聞いて欲しいんだ」 「・・・え?」 セネルの穏やかながら真剣な声に、クロエの緊張は増す。 耳元で聞こえる声に、胸の奥底に封じた想いが疼く。 「好きなんだ」 ゆっくりと、しかし力強くセネルは告げた。 その言葉に、クロエは身を固くする。 頭の中で、もう一度今の言葉を再生する。 嘘としか思うことができなかった。 「気付くのが遅くなった・・・悪い」 どうしてあの雨の日に気付かなかったのだと、自分を叱咤する。 こんな確かな想いに気付かないなんて。 「な・・・何を・・・」 クロエの声は振るえて途切れ途切れになっている。 今にも涙が出そうになっている。 「何を言ってるんだ・・・そんな」 「嘘だと思ってるのか?」 だって、そうとしか思えないのだ 「だって・・・だって・・・シャーリィや・・・ステラさんは・・・」 やっとのことでそれだけ言えた。 もう、セネルの心には迷いも何も無かった。 シャーリィは、大切な妹に変わりない ステラは・・・ ステラは、いつまでも大切な人だ 忘れることなど決して無い そのことを、セネルはゆっくりと告げた。 そして、続けて言う。 「でも・・・今、共に歩み、守りたいのは・・・」 そこまで言って、一旦言葉を切った。 「クロエなんだ」 耐え切れなくなったクロエの瞳から、大量の涙が零れ落ちた。 信じられない 嘘だ でも 「ほ・・・本当なのか・・・?」 消え入りそうな声で言う。 「あぁ。こんなこと嘘で言うかよ」 セネルの声は優しかった。 涙が止まらない。 セネルは、優しくクロエを自分の方に向かせる。 そして、再びそっと口付ける。 触れるだけのキス。 唇を放すと、セネルは強くクロエを抱きしめる。 「俺と、ずっと一緒にいてくれないか?」 あきらめた想いだった なのに なのに 「もちろんだ・・・こんな・・・私でもいいと言ってくれるなら・・・」 ゆっくりゆっくり言葉を紡いだ。 「クロエじゃなきゃ駄目なんだ」 きっぱりと告げる。 クロエの涙は、先程よりも多く流れ落ちている。 胸の奥にあった何かが、スッキリと晴れた気がした。 それは、セネルもクロエも同じ。 「好きだ」 セネルが優しく言う。 「私も・・・」 クロエは、それだけ言うのが精一杯だった。 でも、ただ心は嬉しくて。 消えた火が、再び明るく光る気持ち。 一度は死んだものが、再び目覚める感じ。 ただ、嬉しかった。 それはセネルも同様で、拒まれたらどうしようという不安が大きかったため、内心とても嬉しいのだ。 幸せとはこういうものかと、ふたりは知る。 後日、街で幸せそうに、でも照れくさそうな顔で手をつないで歩くセネルとクロエを見た人がいたとかいないとか。 雨の日は、寒さを隠そう。 ひとりじゃなければ大丈夫。 ふたりはよりそい夢を見る。 それはきっと・・・ ふたりがいつまでも共にいる夢。 END 2005年12月執筆 2008年3月修正 ぐっは! 本当に色んな意味で感心するぜ昔の自分。 今の私は何があったのか、甘々な小説が書けないのですよね…。 昔のうちに書いておいて良かった…かな? この小説で、晴れてうちのサイトでセネクロが恋人になったんです。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月9日 |