feel 〜浮遊〜


feel 〜浮遊〜


「ふと思ったんだけどさ」
「はい?」
「なんでアリーシャは、未だに俺に敬語を使うんだ?」
「え?・・・な、なんででしょう・・・」

戸惑うアリーシャ。
彼女が全く意識することのなかった問題なのだ。

「あんた、誰に対しても敬語だったよな?」
「そうですね・・・そうでなくてはいけない気がして」

そう思わざるを得ないのは確かだった。
パーティーに、年上の人間しかいなかったのだから。
今はルーファスだけ・・・といっても彼も年上に違いない。

「普通に話せる人といったらシルメリアやダレスぐらいで・・・」

そのアリーシャの俯いた表情と言葉が、彼女の今までの生活の全てを表しているようで、聞いているルーファスの方がなんとなく切なくなるような気分だった。

「よし、アリーシャ。俺にもタメ語で話すんだ!」
「え!?い、いきなりは無理ですよ」

ルーファスの唐突にして、率直な提案。

「練習だ、練習」
「そんな急には・・・」

アリーシャはいつまでも狭い範囲にいてはならないのだ。
自分にも気軽に話せるようになることで、彼女の世界を少しでも広げられたら・・・それがルーファスの気持ちだ。

しかし、本当にところはアリーシャのために行動を起こしている自分を理解しかねているルーファス。
自ら同様、神に翻弄されている彼女への同情か、それとも・・・。

「名前は呼び捨てにできるんだから、敬語やめるぐらいできるだろ」
「それとこれとは話が別ですよ!」
「そんなもんか?」
「そんなもんです!だいたい・・・普通に話すぶんには敬語でも困らないじゃないですか!」
「いや、困る」
「もう!」



本日の宿屋にて、敬語撲滅会議開始。
はたから見れば賑やかなカップルだが、ふたりはまぁそれなりに真剣。

「とりあえず、タメで話すようにしろよ」
「な、なんでそんなに命令口調なんですか・・・」
「命令だからだ」
「うぅ・・・」

アリーシャが躊躇うに躊躇って、一向に話は進展しない。

「何をそんなに嫌がる必要があるんだよ」
「い、嫌ってわけじゃないんです!」

見かねたルーファスの言葉を必死に否定する。
自分でも予想以上に大きな声を出してしまったようで、アリーシャは俯いて口をぱくぱくさせてから再び口を開いた。

「嫌なわけじゃないんです・・・ただ・・・なんとなく恥ずかしくて・・・」
「はぁ・・・」

何を今更恥ずかしがる必要があるんだ?
誰もが思うであろうことをルーファスも思い、首を傾げる。
しかし、同時に女性の扱いは難しいのだということを認識した。

「ルーファスは・・・私に敬語をやめて欲しいのですね?」
「へ?あ・・・あぁ」

俯いたままで表情の見えぬアリーシャ。
一体何を思案しているのか。

「ルーファスがそんなに言うのなら・・・私、やってみます!」
「本当か!?」
「はい・・・やはり、すぐには無理だと思いますが」
「いいんだよ、ゆっくりでも」
「はい」

やっと見えた彼女の顔は、気恥ずかしさからか、ほんの少しだけ赤い。
しかし、どこか嬉しそうな笑顔。

「・・・でも、どうしてルーファスは、そんなに私に敬語をやめさせたいのですか?」

どうせなら今すぐ敬語をやめるように話せばいいだろうにと思いつつ、彼女の質問にルーファスは再び首を傾げてしまう。

そういや・・・なんでだ?
アリーシャのため?
・・・どうして?

ルーファスがだんまりになってしまい、何かいけないことを聞いてしまったのかと、アリーシャが「ごめんなさい」と言ってきた。

「あんたが謝ることはないさ」
「でも・・・」
「・・・」

先程の答えは、未だ諮りかねる。
笑顔のアリーシャに、勝手に翻弄されてみたり。



その後、アリーシャの敬語はゆっくりであったが、確実になくなっていった。
そのおかげかどうかは定かではないが、その頃からアリーシャに笑顔が増えた・・・とはルーファス談。

彼の気持ちはまだ浮遊状態。

END

2006年9月執筆
2008年3月修正

アリーシャは気が付いたら敬語をやめていたのでビックリしたのは良い想い出。
精霊の森に着くまで色々あったんだろう…と妄想するのが楽しくて仕方なかったわけです!
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月14日