「どうしよう」としか思えなかった。 お父様が死んでしまい。 シルメリアもいなくなってしまい。 どうしたらいいのかわからない。 ただ、目の前のこの人と共に行くことしかできなかった。 非力な私。 feel 〜知りたい〜 「アリーシャ、もう寝ろよ」 「なんと言われても、今晩は寝ません。何日も続けて、ルーファスにだけ見張り番をさせるわけにはいきませんから」 「…」 精霊の森を目指し、ディパン城を後にした私達は幾度目かの野宿をしていた。 以前はこんな生活に体を壊してしまったけれど、今では随分と慣れてきた。 火がはぜる、焚き火の赤が心地良い。 夜の見張り番はいつもルーファスが買って出た。 私がやりますと言っても、「お姫様は寝てな」とか言って、絶対にやらせてくれない。 「何故、ルーファスは私に見張り番をさせてくれないのですか?」 「そりゃお前」 「私が非力な王女だからですか?」 「そんなんじゃねぇよ」 そう言うルーファスの顔は複雑で。 つらいような焦ったような。 その顔はここ数日の間で、随分と疲れたように見える。 ルーファスは一応24歳ということにしているらしいけれど、もっと長い年月を生きてきたのだと思う。 戦っている時でも、こういった見張りの時でも、それを感じることがある。 どれくらいの時間を、ひとりで生きてきたのだろう。 「…あの…ルーファスは、実際はどのくらい生きているのですか?」 「え…」 「あ…すいません…無神経なことを聞いて」 「いや、いいよ」 少し笑う彼。 こういう時、あぁ優しい人だなと感じる。 ルーファスは、足場の悪い道を歩く時は手を貸してくれたりと、さり気ないところがとても優しい。 私は知っている。 「俺もな…よくわからないんだ。ちゃんと数えたことなくてな」 「そう…なんですか」 ルーファスはどこか遠くを見るように、満天の星空を眺める。 私は、この瞳を知っている気がした。 …なんだっけ? 「アリーシャは、ずっとシルメリアと一緒だったんだっけ?」 「はい。生まれた時からずっと一緒でした」 そう。 ずっと一緒だった。 離れるなんて考えたことなかった。 離れたいと、思ったことはあるけれど。 でも、実際に離れると、からっぽなんだ。 「…」 私が黙ってしまうと、ルーファスも黙る。 でも、彼との間の沈黙を重苦しいと感じたことはない。 むしろ心地良いくらい。 不思議。 いつも一番近くにいてくれたシルメリアがいなくなって寂しく空いた穴を、ルーファスが埋めてくれる。 これは独りよがりなのかもしれない。 ルーファスの周りの空気は、彼の髪の色みたいに緑で澄んだ感じがする。 きっと、彼が住んでいた豊かな森の空気そのものなんだと思う。 それは、私が纏う古城の灰色の空気を打ち消してくれるようで、身を委ねてしまいたい気持ちになる。 …なんだろうこの気持ち ふと、ルーファスの顔を盗み見ようとする。 また、あの遠くを見ている瞳。 「…?」 「!!」 目が合ってしまった。 ゆったりと微笑みを浮かべていた彼の瞳に直視され、私はなんだか急に恥ずかしくなってしまって、顔を俯かせてしまう。 きっと顔が赤い気がする。 「…ルーファスはもう寝てください」 「でもよ」 「寝てください!」 「わかったよ」 押し切ってしまえば、彼はわりとすぐに折れてくれた。 元々疲れが溜まっていたようで、彼は体を横にするとすぐに寝入ってしまった。 失礼かなとは思いつつも、少し寝顔を覗いて見る。 「…」 すっかり深い眠りに落ちたルーファスの顔は、とっても穏やかな空気。 そういえば、私…ルーファスのことを何も知らないわ 唐突にだけど、そんなことを考えた。 今更とも言うかも。 今までは、大勢で旅をしていたから、彼ひとりを特に気にかけることがなかったと思う。 だからこそ今、ふたりだけになって、急激に気になる。 ルーファスは今までどんな風に生活していたの? 好きなことは? 趣味はあるの? いつも、どんな気持ちでいるの? とか。 彼のこと、知っているつもりで、本当はなにも知らなかった。 でも。 私はルーファスの瞳を知っている。 あのどこか寂しそうな、少し影を持った瞳。 そう、あれは鏡に映った私の瞳と同じなんだ。 私はもっとルーファスを近くに感じることができるのではないか。 そう思うと、どんどんと欲みたいなものが出てきた。 ルーファスのこと、もっと知りたい。 彼のこと、もっともっと理解できるようになれば、ルーファスに対して抱いているこの気持ちが何なのかも理解できそう。 私はもっと、あなたを知りたい、感じたい。 ね、ルーファス。 END 2006年9月執筆 2008年3月修正 ディパン城から精霊の森へ行くまでの二人を書きたくて…。 続きもので書いていこうと思いましたが、挫折した模様なので、別々にしました…。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月14日 |