水辺のデート


水辺のデート


流れる水の音の響き。
美しい街並み。
ここ、グランコクマの時間は穏やかだ。

「一度、来てみたかったの」
「そか」

嬉しそうに言うティアに、ルークは照れを隠せずに挙動不審。

「ルークは・・・こういった所は嫌いかしら?」
「いや、全然そんなことねぇよ!」
「ですの!」

ぴょっと突然ミュウが顔を出す。

「だーもう、お前は黙ってろ!」
「みゅぅぅ」

美しい街には、お洒落な店。
上方から流れる水を一望することのできるカフェがある。
ルークとティアは、そこにいた。


しばらく前。
日々に戦闘の疲れを癒すという名目で、ジェイドが自由時間を与えてくれた。
ガイはナタリアの買い物に付き合わされどこかに連れて行かれた。
アニスは酒場に飲みに行ったジェイドについて行った。

残ったルークとティア。
どうしようかと図りかねていたルークを、ティアがカフェに誘ったのだ。

「ティアは、甘いもんとか嫌いなのか?」
「嫌い・・・というより、甘すぎるものは苦手だわ」
「あ〜俺も〜」

カフェには美味しそうなケーキ等がある。
しかし、ティアが注文したのが紅茶だった。
女=甘いもの=ケーキではないと学習したルーク。
そんなルークは、特になにも注文せずにいた。

ただこの状況に満足していた。

「ティアさん、それ美味しいですの?」
「美味しいわよ。飲んでみる?ミュウ」
「はいですの!」

初めて見るものに興味津々なミュウに、ティアは紅茶を飲ませてやる。

こいつさえいなけりゃ・・・

なんてミュウを見て考えてしまい

なに考えてんだよ俺!

と、自己嫌悪のルーク。

「あれ?お前ら」

突然声をかけられ驚く。

「ピオニー陛下!?」
「なんでこんなとこに!?」

ふたりに声をかけたのは、マルクト皇帝ピオニー九世陛下。
ぐわははと笑う姿は、とてもじゃないが一国を治める者とは思えない。

「いやな、ここは俺の行きつけの店なんだよ」
「まさか宮殿を抜け出して来ているのでは・・・?」
「あぁもちろん」

キッパリ告げる陛下に、呆れるルークにティア。

「それより、お前らふたりだけか?」
「ミュウもいますの!」
「だからお前は黙ってろっつーの!」
「えと、そうなんです。今は自由行動で・・・」
「ふ〜ん。てーとなにか?お前らデートしてんのか?」
「「えぇ!?」」

楽しそうに問うてくるピオニー。
突然な質問に顔を赤くしてしまうふたり。

「別にそんなんじゃありません!」
「うんうん。照れたとこもかわいいなぁ」

つーか・・・キッパリ否定されっと傷つくな・・・

ルークの想いなどつゆ知らず。
ティアは“デート”を否定する。

「ま、楽しんでけよ」

そう言い、再び王らしからぬ笑い声をあげピオニーは去っていった。

「なんだったんだ、あのおっさんは・・・」
「さ・・・さぁ・・・」
「?」

“デート”
今更ながら、ティアはその言葉に反応していた。

「ティア?どうした?」
「え・・・いえ・・・」

なんだか急に、まともにルークの顔を見れなくなってしまった。

やだ・・・顔・・・赤いかしら・・・

そして、ティアがこうなった原因はあのおっさんにある。
そう思ったルークは、ひそかにピオニーを恨んだ。



いつしか夕暮れ。
オレンジ色に染まる水は昼間とは違う魅力がある。
皆が帰ってきているであろう宿へと向かう道。
とぼとぼとルークとティアは歩く。
ゆっくりとふたりの時間を過ごす。

はしゃぎすぎたのか、ミュウは道具袋の中で眠っている。
事実上、本当のふたりきり。
しかし、ピオニー陛下登場によりぎこちなくなった空気は健在。
特に会話もなく、ただ歩く。

ティアは、一歩先を行くルークの背中を見る。

なんだか寂しそう・・・

それもそうだ。
内心、ルークはうきうきだった。
ティアがカフェに誘ってくれた。
もしかしたら、これを機に少しでもふたりの距離が縮まるのでは。
そんな期待があったのだ。
結果、その期待は見事に打ち砕かれたが。

落ち込んだルークなんて見たくないわ!

そう思ったら、自然とティアの手はルークの手をつかんだ。

「!?・・・ティア?」

手をつなぎ、顔を赤くしてうつむくティア。
なんだか、ルークはそれだけで幸せになった。

強く手を握り返す。

そっとふたりで微笑んで、宿への道をゆっくりゆっくり歩いていった。

END

2006年2月執筆
2008年3月修正

グランコクマって素敵な街だよねって話。
間違えました、ルクティアです。
ただピオニー陛下を絡ませたかっただけなんですよね…。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月12日