「エミル、だーいすき!」 「う、うん。僕もだよ、マルタ」 「うん!」 一度は見かけなくなったこの光景。 今では再び、いつもの光景。 ただ今は一方的ではなく、2人の想いは一緒。 のはずであるが。 ……なんか ふと、マルタが思う。 それは、今でこそ感じるちょっとした不満。 とても贅沢な悩みなのかもしれない。 でも。 …私ばっかり「好き」って言ってる気がする 「大好き」 「それであたしに相談しようってのかい?」 「うん…しいなが一番相談しやすいかなって」 「う〜ん…」 マルタの悩みの相談相手に抜擢されたのはしいなであった。 プレセアは子ども。 コレットは自分より恋愛に疎そう。 リフィルは大人すぎる。 消去法でしいななら良い助言が貰えるだろうという、マルタの判断である。 「あたしに良いアドバイスなんてできやしないよ」 「いいからいいから!」 「えー…」 マルタはいつも「エミルのことが好き」だとはっきり言う。 エミルはいつも「マルタのことが好き」だとはっきり言わない。 「「大好き」って言われたのも、一度きりだし…」 別れを覚悟して、涙をこらえて、笑顔をつくって、一番心を込めて告白した。 彼もそれに答えてくれて。 「大好き」と言ってくれた。 必死にこらえていた涙が一瞬にして溢れ出す程に嬉しかったのを今でも覚えている。 「だったら別にいいじゃないか」 「私はもっと「大好き」って言って欲しいの!」 「そういうもんかねぇ」 「そういうもんなの!」 エミルは恥ずかしがり屋なところがあるから仕方ない、と思うこともある。 そんなエミルも好きだから良いかな、と思うこともある。 でも、「もっと」って望んじゃうのはダメなのかな…? 「う〜ん…」 「しいなは恋人いるの?」 「いッ!?」 「そう言えば、聞いたことなかったなぁと思って」 「あ、ははははは、いや、まぁ…」 「いるの!?ねぇ、その反応はいるってことだよね!?」 ふと気になって聞いてみただけのつもりが、これは面白い話を聞けそうだ、とマルタは興奮した。 「恋人…なのかねぇ、あれは…」 「どんな人!?」 「…一言で言えば、アホ」 「…え?」 しいなの口から洩れた恋人像は想像しがたいものであった。 しかし、彼女の言葉にはその恋人への全てが詰まっているように聞こえたから不思議というかすごいというか。 「アホ…なの?」 「あぁ、もう手のつけようのないアホ」 「言っちゃなんだけど…そんな恋人で、しいな幸せ?」 マルタの質問に、しいなはふっと優しく微笑んだ。 その表情は旅の間にも見たことのなかった、とても幸せそうな顔。 「あぁ、幸せだよ」 「そうなの?」 「どうしようもないやつだし…「好き」だなんて言ってくれやしないよ」 きっと恋人の顔を思い浮かべているのであろうしいなの笑顔が、なんだか羨ましく見えてしまう。 「でもさ、何もなくても傍にいてくれる。気付くと隣にいてくれる。それだけで十分サ」 「……」 結局ミズホから帰ってきても、マルタの悩みは解消されていなかった。 むしろ、もっと複雑に混乱していた。 私だってエミルが傍にいてくれるだけで嬉しいよ…けど 何かが足りないなんて考えてしまう。 贅沢な願いなんだろうとわかっている。 でも、エミルのことが大好きだから 「マルタ!」 「あれ?エミル!」 名前を呼ばれて振り返ると、そこには愛しい彼が笑顔で立っていた。 「どうしたの?急に」 エミルは今ルインで暮らしている。 叔父と叔母ともう一度一緒に暮らして、新しい関係を築いている。 そのため、パルマコスタにいるマルタに逢いに来る時には、事前になんらかの連絡をくれる。 それが、今日はなんの連絡もなしに急にマルタの目の前に現れた。 マルタにとってはエミルがそこにいることが嬉しいので、理由なんてどうでもいいのだが。 「それが…その…」 「?」 少し顔を赤らめて恥ずかしそうマルタを見つめるエミル。 しかし、次第に羞恥に耐えきれなくなったのか、俯いてしまう。 「実は…ね、急に…その、マルタに逢いたくなった、というか…」 「え?」 やはり俯いたままのエミルの言葉に、マルタは一瞬身動きが取れなくなった。 「あ、あの、ごめんね!急に押し掛けたりして…迷惑なら帰るけど」 「エミル!!」 「え?うわぁ!」 マルタは思いっきりエミルに抱きついた。 力いっぱい抱きついた。 エミルは突然のことに倒れそうになったが、なんとかマルタを抱えて体勢を保った。 「エミル、嬉しい!」 「そう?」 「うん!」 「僕も嬉しい!」 よくわからなかった。 ついさっきまでこだわっていたことが、急に馬鹿らしく思えて。 「逢いたくなった」と言われただけで、胸がいっぱいになって、悩みなんて追い出されてしまった。 なんでだろう…? しかし、今ならしいなの言葉が理解できる気がした。 「大好き」なんて言葉にしなくてもいい。 ただ傍にいるだけで嬉しい気持ちが満たされる。 多分、それが「大好き」っていう気持ち 「エミル、ずっと傍にいてね!」 「もちろんだよ、マルタ」 「えへへ!」 言葉なんてさほど重要ではない。 気持ちが大きすぎて、言葉なんかでは表しきれないから。 その分、ずっとずっと傍にいればいい! ずっとずっと「大好き」だから! END 2008年7月執筆 初エミマル小説!エミマルは可愛すぎる! というか、エミマルは本編で思いっきりラブラブなので、どんな小説を書こうか悩んでしまいます。笑 エミマルとちょっぴりゼロしい風味な話になりました。 ゼロしいは互いに「好きだ」なんて絶対に言わないですね。それがゼロしいなんですけどね。 エミマルはカイリアに次ぐくらいのバカップルであってほしいです。 それでは、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年7月18日 |