アリアの挽歌


「トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ」

それは時に、死眠へと誘うメロディ。
しかし、澄んだ歌声で紡がれる音は、人の心を癒す。

「クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ   ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア」

それは、大切な者を守るメロディ。

「リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ」

それは、心だけでなく、痛みをも癒すメロディ。

「ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ   クロア リュオ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ」

それは時に、全てを葬り去るメロディ。
そして。

「レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ」

それは、亡き者への挽歌。









アリアの挽歌









「やっぱティアはいい声してるよな・・・」

いつの間にか隣に立っていたルーク。
歌に集中していて、いつ部屋に入ってきたのかさえ気付かなかった。

「ルーク。いつここに?」
「ついさっきだよ」

ユリアシティのティアの私室から行ける、小さな花畑。
中央には弔いの石。
かつては魔界にあったこの街唯一の花は、今でも美しく咲き誇っている。
以前はティアの兄が育てていたセレニアの花。
白く美しいそれは、凛として咲く。

その姿はまるでティアのようだ、とルークは何度も思った。

ルークはしゃがみこんで目を伏せ、そして祈る。
今はもういない人達のために。

「ねぇ・・・兄さん・・・」

祈り続けるルークの横で、ティアは口を開いた。

「私、この街を出るわ。でも、花の世話や、お祖父様に逢いに戻って来たりするわ」

ティアはまるで、目の前に人がいるかの様に自然にしゃべっている。
笑顔を保ちながら。

「リグレット教官・・・。私は、やはりあなたの様な人になりたいと思います」

ルークはまだ祈り続ける。

「教官の様に・・・強くありたい。誰かを強く想っていたいから」

正直、胸が痛い。
もういない人達を想うことは、ひどくつらい。

しかし、ティアは笑顔でいる。

「イオン様・・・。イオン様のおかげで、私は今日も生きていられます」

ルークはやっと祈りを終え、腰を上げた。

「イオン様の願い、私も叶えます」
「アニスが頑張ってるからな」
「・・・えぇ。彼女を精一杯手助けするわ」

ルークも語りかける。

「なぁティア。もう一回歌ってくれよ」
「え?・・・えぇ」

そう言われ、ティアは今一度譜歌を紡ぐ。
第一から第七譜歌までを合わせ、ひとつの旋律に。


セレニアの花が風に揺れる。
風と唄うように揺れている。
いつも傍にいた花。
それは、いつか決めた揺るぎない信念の形を表すよう。

死んだ人の分まで生きることが、生き残った人の役目だとか。
彼らを絶対に忘れないことが、せめてもの償いだとか。

そんな風に、想い出と流すことはできない。

相手の可能性を奪ったこと。
その罪を背負い、苦しまなくてはならない。
いつまでも。

ルークはもうひとりの自分の分まで覚悟を背負う。

ティアは、古の挽歌を紡ぐ。



「兄さん・・・私達、結婚するの」
「今度来るときは子供も連れて来ます」
「ちょ!気が早いわよ!」
「いいじゃねぇかよ」
「まったくもう・・・」

ここから始まる新たなるアリア。

END

2006年5月執筆
2008年3月修正

譜歌の歌詞がわかったから使いたくてしょうがなかったんでしょう…。困った子や、自分。
もし、歌詞が間違っていたら申し訳ありません…ッ!
ちなみに、BUMPのハルジオンの歌詞を少しイメージさせて頂いたところがあります。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日