あなたへの想い


あなたへの想い


「イオン様〜!」

バンッと派手な音をたて、アニスはイオンの私室へ転がり込んだ。
とは言っても、慎重に両手でスープの入ったお皿を持っている。
右手には器用に指に絡めてスプーンを持つ。

「アニス。どうしました?」
「はい、これ!」

そう言ってアニスは持っていたお皿を中身の汁を零さないようにして机に置いた。
その後にスプーンも並べて置く。
スープの色は優しいクリーム色。
その中には様々な野菜が浮かんでいる。

「なんですか?これ」
「シチューです!イオン様、食べてください」
「いいんですか?」
「もっちろん。イオン様のために作ったんですから〜」
「僕の・・・ために・・・ありがとうございます」

イオンは心底嬉しそうに笑顔を浮かべる。
それにつられてアニスもニコっと笑う。

スプーンを手に取りイオンはスープをすくって一口、口に入れる。

「うん。美味しいです」
「ホントですか〜?頑張って良かったです〜♪」

アニスはホッとする。
シチューのレシピは幾度か失敗をしている。
やっと上出来にできた今回。

イオンに「美味しい」と言ってもらえた事がどれだけ嬉しかったか。

イオンはスプーンを同じように動かし、シチューを何度も口に運ぶ。

・・・・

それだけでもう、アニスの胸はいっぱいで。

しばらくすると、イオンは残さずシチューを平らげた。

「アニスは本当に料理が上手ですね」
「あは。そうですか〜?」
「はい。こんな美味しい料理を食べれて僕は幸せですよ」
「イオン様、褒め過ぎですよ〜」

だってあなたを想って作っているから

そっと心の中でアニスは呟く。

「これなら玉の輿にも乗れるんじゃないですか?」
「だといいんですけど」

ホントはあなたに笑ってほしいから

胸の内で囁く。









光がさしこむ。
どこからか眩しく。

微笑むイオンの姿が遠くなる。

『アニス』

私を呼ぶ声が消される。

イオ・・・ン・・さま・・・

遠く光が弾ける。











私は罪を犯しました。
あなたを想っていたのに。
私があなたを殺しました。
私はその罪を背負います。
一緒にあなたの願いも背負います。

誰かが、私が悪いのだと罵ってくれれば楽だけど、そんな風に逃げたりしません。
逃げたらもう私はあなたを想うことができないだろうから。

あなたが好きな人達が、私も大好きです。
あなたのかわりに私が皆を守るから。

あなたを想って、今日も生きていきます。
罪を抱え、苦しんで、それでも。

だから、見守っていて下さい。

イオン様。











「アニス様!!」
「はうわっ!?」

唐突に耳元で大きな声を出されてびくっとする。
うつろな目を開くと、すぐ横にはひとりの教団員。
寝ぼけた脳を動かし、状況の把握をする。

あぁ、寝ちゃってたんだ

亡きイオンの私室の机。
ちょっとばかしつっぷしているつもりが眠ってしまったのか。

「も〜せっかく超いい夢見てたのに〜」
「フローリアン様が呼んでますよ。あと、そろそろ会合の時間です」
「すぐ行く〜」
「はい」

教団員は一礼をし、部屋を後にする。

アニスはしっかりと椅子に座りなおし、部屋を見渡す。
まだかすかに残る、あの人の気配。
きっとアニスにしかわからない。

「よっし行くか〜!」

勢いよくアニスは腰を上げる。
ドアの所まで向かい、ノブに手をかけたところで止まる。

とびっきりの笑顔を浮かべて振り返り、机に向かって言う。

「私、今日も頑張っちゃいますから!ちゃんと見てて下さいね、イオン様」

END

2006年3月執筆
2008年3月修正

イオンの部屋はアニスがそのまま残しておくように言ったと思います。
そして、よく一人でイオンの部屋に行っては、今日の報告したり愚痴とかこぼしてるんですよ、きっと!
ED後は教団でそれなりの地位になって忙しい彼女の安らぎの場所だと良いです…。
2008年3月13日