雨が告げるコトバ 雨。 冷たい雨を降らす空は暗く、光を遮る。 ただ静かに降る雨。 草花をつたう雫。 雨上がりの美しい虹を夢見る。 帰らずの森は暗い。 大きな木々が立ち並び、光の侵入を固く拒んでいる。 さらに雨が降っているとあらば、その暗さは増す。 その森の中に、雨に打たれながら立つふたり。 銀色の髪が、雨に濡れて艶やかに光る。 それの持ち主、セネル。 そして、美しい黒髪が映えるも、瞳に雨とは異なる雫をたたえる、クロエ。 ふたりの距離は、幾分か遠い。 クロエの胸の内は、決して晴れやかなものではない。 敵を討つことには、決着がついた。 心をかき乱す、あの黒く醜い感情はもう無い。 でも 大切な仲間に、散々迷惑をかけてしまった。 エルザにも、つらい想いをさせてしまった。 なにより・・・。 今、目の前で優しい言葉をかけてくれる人。 クーリッジを傷つけた。 その事実が、クロエの心に影をおとす。 まるで、雨を降らす空のように。 「私は、どうすれば良かったと思う?」 「クロエはよくやったんだ。だからもう休んでいい」 「私は・・・私は・・・」 「クロエは努力してきただろ?それを誇りに思っていいんだ。過去を否定することはない。」 クーリッジの優しさが、つらかった。 優しくされればされるほどに、胸が苦しくなっていく。 罪悪感がつのっていく。 「クロエ」 そう呼ばれることさえ、罪ではないかと思う。 重症だ。 クーリッジを想えば想うほど、つらかった。 「クロエのしたくないことを、する必要なんてない。誰が許さなくても、俺が許してやる。だから、もうやめろ。」 「・・・っう・・・うん・・・うん。」 「誰かの影や、周囲の声を気にして、生きていく必要は、もうないんだ。自分の人生を、生きていいんだ。クロエはここにいるんだからな」 「その言葉を言ってくれるのが、クーリッジでなければ、胸に飛び込んで泣けたのに・・・」 「ありがとう、セネル」 小さな小さな声で、名を呼んだ。 本当に感謝しているから。 そして、決別の意をこめて。 「けど、もう優しさはいいよ・・・」 こちらにも、決着をつけなくては。 覚悟を決めなくては。 クロエは、セネルの背中に寄りかかった。 「雨、ホントに気持ちいいぞ」 「うん・・・雨で良かった」 本当に良かった。 セネルはクロエの方へ向きなおり、手を差しのべた。 「帰るか」 しかし、クロエはその手をつかまなかった。 差し出された手を見つめ、そしてセネルを見る。 初めて、目が合った。 此処で、全てを振り切るために。 虹を見たいから。 胸の中に降り続ける雨を、早く消し去りたいから。 「私は、帰れない」 「え?」 「皆のもとへは、帰れない」 失ったはずの、家族のぬくもりを与えてくれる仲間達。 帰りたい。 でも。 「・・・・・・私は、お前が好きなんだ」 「え・・・?」 「仲間として、ではなく、ひとりの女としてだ」 クロエは、自嘲ぎみに笑う。 セネルは「告白された」ということを飲み込み、多少なりとも混乱している心を落ち着かせる。 「俺・・・」 ようやく、それだけ言った。 俺の気持ちは・・・ 「俺は・・・」 「・・・言わなくていい」 「?」 「わかっているから」 クロエは、相変わらずつらそうに笑って。 「私じゃ、かないっこないんだ」 「クロエ・・・」 ステラさんにも、シャーリィにも。 かなうわけないじゃないか。 何か言わなくては、とセネルは思った。 でも、何を? 俺の気持ち? 自分の心の整理がついておらず、混乱した。 沈黙がやってくる。 セネルは黙り込んでしまっていた。 クロエは、訪れた沈黙は自分の想いがセネルに受け入れられなかった証拠とした。 「街へ戻ろう、クーリッジ」 「あ・・・あぁ」 「・・・すまないな」 「?」 雨が上がり始め、日差しが見えてきた帰り道を行くふたり。 道中、クロエはずっと考えていたことを、セネルに告げた。 大陸に帰る。 それを聞いたセネルは、何とかクロエを引き止めようとした。 しかし、クロエの考えは変わらない。 仲間に迷惑をかけたこと。 好きな人を傷つけたこと。 それが、クロエの心に染み付いてしまっていた。 朝方、ふたりは街に着いた。 心配そうな顔をした仲間達が、出迎えてくれた。 そして、クロエは先刻セネルに告げたことを、仲間達にも言う。 ノーマは、クロエの気持ちを理解しているようで、ひどくつらそうな表情をしている。 パンッ キレイに晴れ渡った空に響いた音。 シャーリィが、クロエの頬を打った。 「みんなの顔をよく見てください」 いつものシャーリィとは、うって変わって少し厳しい口調で言う。 シャーリィは、クロエに向かって想いの全てをぶちまけた。 私は、ここにいたい クロエの本音が、言葉となって現れた。 結局、クロエは大陸に帰らなかった。 自分の想いと、真剣に向き合った結果である。 とても晴れやかな気分になれた。 まるで、虹を見ているような気分。 噴水広場で、シャーリィと逢った。 そして、笑って話せた。 クーリッジのことは諦めた。 でも、「クーリッジの隣」という立場は捨ててない。 そのことも告げて。 シャーリィに「クロエ」と呼ばれて。 ちょっとくすぐったくて、でも嬉しかった。 とても、とても快晴な空。 虹はかかってないけれど、青い空は美しい。 クロエの心そのものを、映し出したような澄んだ色。 クロエは、空を見上げ微笑む。 あの頃無くしたはずの、最上の笑みで。 END 2005年12月執筆 2008年3月修正 またしてもセネル←クロエなお話。 クロエは自分で自分の想いを諦めてしまったと思うのです。 いや、だってセネセネに女の子をフってしまうような甲斐性は無いと思うのです…。 私はお兄ちゃんのことをなんだと思っているのでしょうか。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月9日 |