甘い一日 part3-想い人- 「アリエッタ、できたわよ」 「うまく・・・できてる・・・ですか?」 「えぇ。とても美味しそうよ」 リグレットができあがった甘い匂いを放つ物をアリエッタの目の前にさしだす。 アリエッタは幾つか並ぶそれのひとつを手に取る。 冷たく固まったそれは、チョコレート。 「リグレットは・・・ヴァン総長にあげるの?」 「そ、そうよ」 珍しくリグレットの口調が濁る。 ほんの少しだけ頬を赤く染めて、チョコを眺める。 「アリエッタは誰に?」 「六神将の皆とか・・・あとお世話になってる人・・・お友達にも」 「導師イオンは?」 「・・・今、イオン様いないから・・・」 現在、イオンは神託の盾の方にはいない。 それは、また彼らが連れ出したということ。 「アニスのバカ・・・」 彼らというより、アリエッタにとってイオンを連れ出したのはアニスという風になる。 言い知れぬ対抗心がアリエッタの中に生まれる。 「・・・では、チョコを包んでしまおうか」 「うん」 アリエッタは順調に皆にチョコを渡した。 ディストは少し嫌そうな顔をしたが受け取ってくれた。 ラルゴは結構嬉しそうに貰ってくれた。 そして、たまたま現れたアッシュも。 アッシュは最初は嫌そうにしたが、少しアリエッタが愚図っただけであっさり受け取った。 そして、アリエッタがチョコを渡すのはあとひとり。 「シンク・・・」 「なに?」 いつも通りの冷たい声で返事を返してくる彼。 少しだけアリエッタは怖気ずく。 だが、いい加減慣れるべきだと自分に言い聞かせる。 「チョコ作ったの・・・」 そっとチョコの入った箱をさしだす。 「バレンタインチョコ?・・・馬鹿馬鹿しい」 「そんなこと・・・ないもん」 アリエッタは一歩も退かず、シンクにチョコを渡そうとする。 だが、シンクにもシンクの想いがあるわけだ。 「イオンにはやったのか?」 「イオン様・・・アニスのとこにいるから」 イオンのことでいちいちそんな顔になるなよ シンクの胸に生まれる苛立ち。 アリエッタはイオンのことになると、途端に表情が変化する。 シンクはそれが気に入らない。 その理由を理解できないでいるまま。 「・・・・・・」 アリエッタが無言で箱を突き出してくる。 シンクはため息をひとつつき、仕方ないねと呟きながら箱を受け取った。 「ありがとう・・・シンク」 普段からあまり笑顔を見せないアリエッタの、小さな小さな微笑み。 どうせお前が想うのはあいつなんだろ? “イオン”の名を持つあいつだろ? 僕だって同じ存在のはずなのに ・・・やっぱり僕は空っぽだ シンクの中に駆け巡る思考。 それが目の前の少女を想ってのものなのだと、自覚するのが恐ろしかった。 アリエッタが去った後、シンクは彼女のチョコを食べた。 それを、甘くて美味しいと思う自分が憎らしかった。 END 2006年2月執筆 2008年3月修正 きっとディストにあげたのは失敗作(笑 シンアリはどうしてもシンクの気持ちばかり出てしまいますね。 切なくなる…。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月12日 |