「も〜イオン様ったらどこにいるの〜!?」 ひとり街中で叫ぶ少女アニス。 アニスが呼ぶはローレライ教団最高指導者でありながら、のほほんとしたあの少年。 「せっかくアニスちゃんが心をこめてチョコを作ったってのに・・・」 ナタリアとティアと共に作った大量の義理チョコとは違い、ひとつだけ特別に作ったもの。 渡したい相手は今何処・・・。 甘い一日 part2-笑顔- 街にいる仲間達に彼の所在を知らないか訪ねに行く。 結局それは無駄足となってしまったが。 「イオン様〜・・・」 もう一度彼の名を呼んでみる。 当然返事など返ってこない。 だんだんと日が暮れ始めていた。 アニスはイオン捜索を諦め、街の外へ気晴らしに足を伸ばした。 すると、外にはずっと探していた彼の姿。 「イオン様!?」 草原に座る彼は、こちらを振り返り優しく微笑む。 「アニス」 「もう〜こんなとこに居た〜!」 アニスはずかずかとイオンの傍まで行き、彼の隣に腰を下ろした。 そして、チョコの入った箱をずいとイオンにさしだす。 「はい、イオン様」 「僕に・・・ですか?」 「そうですよ。今日はバレンタインですよ!」 「バレン・・・タイン・・・」 箱をまじまじと見つめるイオン。 アニスはまさかという不安にかられてしまう。 「イオン様・・・バレンタインって・・・」 「知ってますよ」 ホッと胸を撫で下ろすアニス。 バレンタインを知らない人にチョコをあげても、それはただのプレゼントに成り下がる。 幾分も価値が下がってしまうのだ。 「女性が男性にチョコレートを贈る日ですよね」 「そうです」 深い意味までは知らない様子である。 アニスにとっては好都合なこと。 ただ、彼に渡せれば。 「アニス、ありがとう」 ただ、笑ってくれればそれで満足なのだから。 「そういえば、イオン様どうして外にいるんですか〜!危ないじゃないですか!?」 「夕日があんまりキレイでしたから・・・それに、危険な時はアニスが助けに来てくれますよね」 そう言って、イオンはまた笑う。 その笑顔が、アニスの胸の中に罪悪感を生む。 そして、羞恥の念も。 ふたりは沈む夕日を眺める。 落ちていく日は、それはそれは幻想的と言える風景で。 ただ、赤い光に照らされるアニスの表情は硬い。 「もし・・・」 「え?」 しばらくの沈黙を先に破ったのはイオンだった。 「もし、僕が死んだらどうします?」 「な、なに言い出すんですか!?」 「もしもですよ」 突然何を言い出すのかこの人は。 いつもふわふわしていて、はっきり言って天然のイオン様。 それにしたってこの質問は突拍子が無さすぎる。 「もし・・・イオン様が死んだら・・・私、自分を責めます」 「どうしてですか?」 当たり前のことじゃないですか 「だって私は導師守護役ですよ。イオン様が死んじゃったら、それはイオン様を守りきれなかった私のせいです」 ううん 本当はそれだけじゃない 「そうですか」 また、イオンは優しく微笑む。 私はあなたを騙してる あなたを守るはずの私が イオン様の笑顔を見る度に、胸がものすごく痛くなる いつの間にかイオンはアニスから受け取った箱を開けていた。 一口サイズのチョコをひとつ口に入れる。 「うん。美味しいです」 そう言って、やはり笑顔になる。 「そりゃそうですよ〜。このアニスちゃんが作ったんですから!」 罪悪感とか色んな嫌な思いが胸に渦巻いてくる。 彼の瞳は全てを知っている上で微笑んでくれているのではないかと思う時がある。 それがひどく重く暗いものとなる。 ただ今は。 この大切な笑顔を守りたい。 今だけじゃなくて、これからも。 それは叶わないのかもしれないけれど。 END 2006年2月執筆 2008年3月修正 あまりバレンタインとは関係ないですね。 初イオアニ作品だったわけですが、アニスの心を描きたかったのです。 両親も好きだけど、イオンだって大好きなアニスは、相当つらい想いをしてたはず。 では、読んでくださった方、本当にありがとうございました! 2008年3月12日 |