甘い一日 part1


甘い一日 part1


「よ〜し、はりきっちゃうよ〜♪」
「えぇ。頑張りますわよ!」
「・・・・・・」

光の王都バチカルの宿屋。
主人に許可をもらい、女性3人は厨房に居た。
買ってきた板チョコや、色んな姿をした型等が机の上に並べられている。

世の女性達の一年に一度の大イベント。
本日はバレンタインデー。


もともとは異国で始まったバレンタイン。
女性が想い人にチョコレートを贈り、想いを伝えるという儀式だ。
まぁ、義理という情けの様なものもあるが。
ともかく、バレンタインとは女性にとっては大事なイベントである。
もちろん、普段は男性と肩を並べて戦うアニスやナタリア、そしてティアにとってもそうである。

今年、初めて手作りに挑戦すると言って意気揚々のナタリア。

「いつまでも城のシェフを頼ってはいられませんもの!」
「とか言っちゃって〜。ホントはアッシュに手作りをあげたいだけじゃないの〜?」
「ま・・・まぁ、そんなとこですわ!・・・でも、彼に会えるかどうか・・・」
「愛の力でなんとかなるって〜♪」

不安そうなナタリアを慰めるアニス。
そんなふたりを尻目に、ティアは黙々と作業をしていた。

「・・・ティア真剣だね〜」
「そ、そう?」
「まぁ、真剣にもなりますわね」
「だね〜」
「・・・・・・」




「できたわ」
「よ〜し。後は固まるのを待つだけだね〜」

一通りの作業を終え、残すところはチョコが固まるのを待つことだけ。

「それにしても、本当にティアはいつにも増して真剣でしたわね」
「そうかしら・・・」
「そりゃそうだよ!想いを伝えたい人がいるからね♪」
「ア、アニス!」
「あぁ、そうですわね」
「ナタリアまで・・・」

バレンタインに真剣にチョコを作る。
それは想いを伝えたい人がいること。

確かに・・・そう・・・だけど・・・

アニスとナタリアに冷やかされ、ドギマギしてしまうティア。
確かに自分には想い人がいるのだと、強く自覚してしまい胸の中がざわついてしまう。

「ア、アニスは誰にあげるの?」
「私〜?」

なんとか自分のことから話をずらそうとアニスに問いかける。

「皆だね〜」
「皆・・・とはどのくらいですの?」
「ルークでしょ〜ガイでしょ〜大佐でしょ〜あとあと〜・・・」

そこでふと気になり、ティアは更に問う。

「導師イオンは?」
「はうわ!!」
「まさか忘れてましたとか」
「そんなわけないじゃん!」
「?」

珍しく少し顔を赤らめてしゃべるアニス。
もごもごと口を小さくして続ける。

「イオン様は・・・特別だもん・・・別の作ってあるもん」
「そういうことね」
「納得ですわ」

特別な人には特別な物を。
アニスの想いはそういうものだったわけだ。

「私もアッシュのだけは違いますもの」
「だよね〜」

ティアはふたりの会話を聞き、戸惑う。
自分のは特別も何もあったものではないからだ。

何しろ、チョコはひとつしか作っていないのだから。




「・・・・・・」

大きく深呼吸を二回。

ティアはファブレ邸の中に居た。
そして、ルークの私室のドアの前で立ちすくんでいる。

なにを緊張しているのかしら・・・
いつもと・・・同じようにすればいいのよ・・・

今日という日にチョコレートをあげることが、こんなにも勇気のいることだと思わなかった。
もう一度深呼吸する。
そして、意を決してノックをした。

中から声がして、ティアは部屋に入る。
チョコの入った箱は後ろ手に隠して。

「あ、ティア」

部屋の主ルークは、ベッドに腰掛けていた。
そのルークの手には小さな箱ふたつ。

「そ・・・それどうしたの?」
「あぁ、さっきナタリアとアニスに貰ったんだけど・・・」

出てきた名前がよく知るふたりのものであることにティアは安堵する。

「中身は手作りチョコだっつってたけど・・・」
「どうしたの?」
「・・・ナタリアのは恐ろしくて食えねぇ」
「ナタリアだって一生懸命作ったのよ!」
「う〜・・・」

確かにナタリア作のチョコは少しいびつな形をしていた。
味が良ければ問題無いとして、彼女は気に止めなかった。

まぁ・・・味が良かったかは知らないけれど・・・

「で、ティアは何しに来たんだ?」
「え!?あ・・・その・・・」

唐突に問われティアは焦ってしまう。
心臓の鼓動が激しくなるのが分かる。

ティアは覚悟を決めて、後ろ手に持っていた箱を出す。

「・・・これ!」
「・・・俺に?」
「そ、そうよ!」
「!!ありがとうティア!」

嬉しそうに笑って、ルークはそれを受け取った。
箱を包む紙をできる限り丁寧に外すルーク。
ふたを開け、姿を見せたのはいくつかの一口サイズのチョコレート。

「ティア・・・ありがとう」
「・・・どう・・・いたしまして・・・」
「これ・・・ティアが作ったのか?」
「えぇ・・・どうせ意外でしょうけど」
「そんなことねぇっつーの」

ルークはなんだか楽しそうに話す。
手作りチョコを意外だと言われるのが不安だったが、彼はそんなことは気にしていないようだ。

「食ってもいいか?」
「え・・・えぇどうぞ」

ルークがひょいとチョコを口に運ぶ間に、ティアは何気なくルークの横に腰掛ける。

「うん。美味い」
「本当!?良かったわ」

ティアも思わず笑顔になる。

「!?」

彼女の満面の笑みにルークは心奪われる。

二つ目のチョコを口に入れる。
甘い味が口いっぱいに広がっていく。

それは、今ルークの心の中で起きている作用と同じもの。

「・・・ルーク・・・わ・・・私・・・」

ティアがか細い声で何かを伝えようとする。
今まで使ったことの無い程の勇気を振り絞って。

ただ一言、伝えたい言葉。

「私・・・!?」

ティアの口は、全ての言葉を発することができなかった。
なんたって、ルークによる口付けで塞がれてしまったのだから。
ルークはティアの両肩をつかみ、ゆっくりとベッドに押し倒した。
そこでやっと唇を放す。

「ちょっと、ルーク!?」
「ごめん、俺もう我慢できないかも」
「!?」

そう言って、もう一度キス。

ティアの口内まで伝わる甘さは、自分で作ったチョコの味。

END

2006年2月執筆
2008年3月修正

バレンタインでやりたい放題!バレンタインって素敵!
ルクティアとイオアニとシンアリの3パターンでやりたい放題やりました。
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月12日