again〜再会の出逢い〜


again〜再会の出逢い〜


「パパ〜!!犬、犬、犬!」
「犬?」

先日10歳になったばかりとは言え、まだまだ小柄なシュリが何やら叫びながら家へ戻ってきた。
ルークはそんな娘を見て、もう少しおしとやかに育てるべきだったかと考えてしまう。

「犬!うちの前に犬がいるの!かわいいんだけど」

犬なんてそうそう珍しいものでもないだろうに、どこか焦っているようなシュリ。
ルークの腕を引き、外へと連れ出そうとする。

「犬、けがしてるの!」
「それを先に言えよな」

シュリが見つけた犬というのは、怪我をしているらしい。
それを先に言ってくれれば急いで向かってやったものを。
それだけ、シュリの気が動転しているようだ。

「あの子!」

娘が指さした先には、一頭の犬が倒れていた。
大型犬という程大きくはないが、中型でもない。
毛の色は美しい金色だが、どの種だと判別がつかないあたり、雑種であろうその犬の右の前足からは、痛々しく血が流れていた。

「うちで治してやっか」
「うん」

かるく10kgはあるその犬を、ルークはひょいと持ち上げて家へ戻った。
始終、シュリは心配そうな表情をしていた。





「よっし、これで大丈夫だ」

ルークは犬の足に包帯をし応急手当をした。
ティアが居てくれればもっと良い治療をしてくれるだろうが、生憎今は外出中。

「よかった〜・・・どうしたのかなぁこの子」

今だ目を閉じ、ぐったりと倒れている犬を撫でてやりながらシュリはポツリと言った。

「?偶然うちの前で倒れてただけだろ?」
「う〜ん・・・なんかね、たまたまじゃない気がするの」
「・・・・・・」

シュリは不思議な感覚を持った子供であった。
それは「第六感」というのか、「勘」というのか。
ともかく、そういった力が発達していた。

「あ!」

シュリが唐突に声をあげたので、何事かとルークも犬を見た。
すると、犬が目を開けていた。
視線を感じたのか、犬は真っ直ぐにルークを見てきた。

ルークは一瞬、胸がざわついたのを覚えた。

犬の瞳は翠緑。
惹きこまれそうな程に美しい自然の森の色。

ルークはその瞳に見覚えがあった。

「・・・イオン」

無意識のうちにそう呟いていた。

「パパ?」
「あ・・・いや、なんでもねぇよ」

そう言って、ルークはシュリの頭に手を置き彼女の髪をわしゃわしゃと弄った。
シュリはどこか心配そうな顔を向けてきた。

しかし、すぐ傍で怪我した足を庇いながら犬が立とうとしている事に気がつき不安げな表情は犬に向けられた。
犬はちょこんとシュリの前に座った。

「無茶しちゃだめだよ?」

頭を撫でてやりながら、シュリは少し嬉しそうにした。
犬は彼女の言葉に答えるかのように元気に吼えた。

「あ、お前・・・こんなかわいい顔して雄なのね」
「・・・」

またしても「彼」と結びつく点が出てきた。
少女のようなあの姿が思い浮かぶ。

どんな時でも物腰柔らかで、優しかったあの少年。

『ルークは優しいですね』

まだまだ馬鹿だった頃の自分を「優しい」などと言ってくれた。

急に涙が出てきそうになった。

「パパ?泣いてるの?」
「そ、そんなんじゃねぇよ」

娘の前で泣く事ほど情けないことはないだろう。
なんとか堪えようとするが、熱い涙はお構いなしに込み上げてきてしまう。
すると、犬がひょこひょことルークの前へと歩み出てきて彼の頬に顔を摺り寄せ舐めてきた。

「優しいんだな・・・お前」

そう言って、ついに涙を落としながらも微笑んでルークは犬の頭を撫でる。
犬は嬉しそうにキューンと鳴いた。

「ねぇパパ。この子うちで飼っちゃだめ?」
「そうだなぁ・・・どっかに飼い主がいるかもしれないぞ」
「飼い主さんが見つかったら、ちゃんとその人に返すから!」
「わかった。お母さんに相談してみような」
「うん!」

シュリはまだ飼う事が決まったわけでもないのに、嬉しそうに犬に抱きついた。
犬はまったく嫌がる素振りを見せない。

ルークの中で、嘘のような確信ができた。

この犬は「彼」なのだ、と。





帰宅したティアに向かって、シュリと犬がダブルで突進した。

愛娘の頼みを聞き入れない程厳しい母ではないティアは、シュリのお願いを承諾した。
犬の可愛さに心奪われたという理由があるのは明白だが。

「やった〜♪お前はこれからうちの子だよ!」

犬と共に大はしゃぎで家を駆け回るシュリ。

「シュリ、静かにしなさい」
「は〜い」

母に叱られても、嬉しさを隠し切れない様子で犬と遊んでいる。

「まったく・・・」
「いいじゃねぇか別に・・・それに」

ルークは、ティアに自分が感じたものを話した。
あの犬の中に「彼」の姿を見たことを。
すると、ティアも同じ事を感じたと言ったのだ。

「マジかよ!?」
「えぇ・・・あの瞳はどうしても」
「イオンに見える・・・」
「・・・えぇ」

ティアの言葉を引き取って口にした言葉に、ルークはまた確信を深めた。
自分以外の人もあの瞳は「彼」だと思ったのだから。

「それに、今日は・・・」
「あ、そっか!」

すっかり忘れていた。
今日、ティアが出かけていた用事。
ルークはシュリとお留守番だった。

今日は
「彼」の命日だ。

「パパ、ママ!この子に名前付けなきゃ!」

ルークは見上げてくる娘と犬を見、そして隣の妻を見た。

「そうだな・・・この犬の名前は・・・」





「やっほ〜アニスちゃんだよ〜ん☆・・・って、はうあ!」

アニスが家に入った途端、いつもならば飛びついてくるのはシュリであるはずが、今日は見知らぬ犬に飛びつかれた。
驚いて尻餅をついてしまったアニスの顔を犬はペロペロと舐め回す。

「わ!何々!?くすぐった〜い!」
「あ、だめだよイオン!アニス姉ちゃんをおそっちゃ〜!」
「え!?」

パタパタと出てきたシュリが諌めると、犬は金の毛を靡かせながら彼女の傍らへ行った。

「ちょ・・・ちょっと待ってシュリ!今、なんて言ったの!?」
「?」
「「イオン」はその犬の名前よ、アニス」
「ティア」

次に現れたティアの言葉に、アニスは些か複雑な表情をした。
嬉しいんだか悲しいんだか、全く把握できない顔と声のアニス。
シュリは、大好きなお姉ちゃんのその表情の理由がわからなかったが、ひどく痛々しいものに見えていた。

「そいつをよく見てみろよ」
「ルーク・・・」

アニスはどこかいぶかしむ声色で、この家の主の名を呼んだ。
「イオン」と呼ばれた犬がいつの間にかアニスの前にちょこんと座り、物言いたげな表情で見上げてきた。

アニスは恐る恐るその犬と目線を合わせる。
しっかりと翠緑の双眼と目を合わせ、アニスは絶句し、泣き出してしまった。
子供のように、それこそわんわんと泣く。

「アニス姉ちゃん!?どうしたの?泣かないで?」

心配そうに声をかけるシュリをひっ捕まえて抱きしめながら、アニスは泣き続けた。
イオンはアニスの顔をペロペロと舐め、彼女の涙を癒そうとしている風に見えた。





他の仲間もイオンを見ては驚いていた。
しかし、その上でこのイオンは「彼」であると感じていた。
ジェイドは、生まれ変わりなどは信じないが、その類のものなのだろうと言っていた。

こうして「彼」が再び自分達の前に現れた事、家族がひとり増えた事を、ルーク達はとても喜んだ。

それは偶然ではなく必然であった。

END

2006年6月執筆
2008年3月修正

娘シュリ初登場にも関わらず話のメインはイオンに(笑
やりたかったんです、犬イオン!
では、読んでくださった方、本当にありがとうございました!
2008年3月13日